第2470話 72枚目:佳境逼迫

 さて。あの仮称盾分体を削り切ってもう出てこなくなるまでの時点で残りログイン時間は5時間。そしてあの巨大な……モンスターを綿とした場合の、フェルト人形の元みたいな奴と戦い始めてから2時間。つまり、残りログイン時間が3時間になった。

 そろそろ撤退してログアウトするタイミングを考えないといけないんだが、やっぱりあの巨大なモンスター詰め合わせを避けながら本体にダメージを通すパターンだったらしい。巨大な相手との派手な攻防の裏でちくちく黒い綱を切り続けていたかいあって、一応再び見えるようになったレイドボス「縛り連ねる外法の綱禍」の体力バー(3段目)の残りが、3割を切った。

 となると行動変化が来るし、ここまで来たらどうにか仕留めてしまいたい。まぁ私は後方でお散歩のままなんだが。


「とはいえ、一度も満タンに戻っていないどころか時々供給下限まで減る辺り、かなり戦線維持に貢献してる筈なんですよね」


 ま、私のログインはいつも通りだし、決戦と見た召喚者プレイヤーの大多数はログインを合わせているだろうから、残り時間はほぼ共通だ。日付変更線を挟んで再ログインしても同じだけの勢いは保てないし、内部時間2時間は空白が出来る。レイドボス相手に、それはちょっと無理だ。

 だから仕留めておきたい。ここで決着をつけておきたい。そうすれば、最終日である日曜日が丸1日、ボーナスタイムに出来る。ラスボス直前なのだから、何か変化があるかも知れないし。

 そう思いつつ、最前線の方を見ていたんだが。


「……本当に、しぶといというかなんというか……」


 残り3割。ほぼ瀕死と言えるだろうタイミングで起きた変化は、まず暴れまわって無限に再生していた巨大なモンスターの詰め合わせが解けて、ただのモンスターの群れに戻っていくというものだった。まぁこれはいい。

 ただしその次に、解けた黒い糸が、その太さのままぶわっと空中に持ち上がった。一瞬モンスターが一斉に飛び上がったのかと思ったんだが、どうやら糸もしくは綱だけのようだ。

 持ち上がった方はお互いに絡まり合うようにして平たい形になっていき、地上に残っている分は、随分と小さいが、黒い綱を編んだドームのようなものの形に戻っていった。もちろん大きさは小さいし、観測班の撮影している動画を見る限り、主に角の辺りで巨大な石臼がそこにあるのが見える。


「ここにきて、空中からモンスターの大量追加とは。しかも本体の防御をがっつり固めて」


 そう。最終的に編み上がったのは、空中に浮かぶ巨大な魔法陣だった。その下に落ちる形で地上型のモンスターが、上から飛び立つ形で飛行型のモンスターが、これでもかというほど出現する。

 もちろんすぐに応戦が開始されるのだが、ここで僅かに違和感。「縛り連ねる外法の綱禍」の一部である綱は黒い色をしているし、その色は一様でどこにも違いらしい違いはない。

 のだが。


「……見間違いで無ければ、少なくとも中央の部分は、編まれたところに更に何か、黒い液体のようなものが染み込んでいるような……」


 染み込んでいるというか、現在進行形で染み込んでいっているというか。なんかこう、液体っぽいものが綱に沿って動いたような、そんな気がしたんだが……?

 何だ? と私が動画と遠目に見る様子を見比べている間にも戦闘は続いている。魔法陣はモンスターを倒すことでのみ減らす事が出来るが、ここで再びしっかりと編み込まれた状態のドームは攻撃する事でイベントダンジョンが出現する。

 ただし現在、イベントダンジョンには突入できない。そこは変わらないと思う。だが、ここまできて攻撃しない、という訳にも行かない。ので、メイン武器ではなく予備武器か、投擲武器で誰かがドーム部分に攻撃した。


「は?」


 瞬間。

 その攻撃に使われた武器と同じものが。

 モンスターの群れに混ざって、戦場全域に、降り注いだ。

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