第2466話 72枚目:突破方法

 で、更に1時間後。


「うーん……」


 司令部は8つに分かれてドーム型になった、大きな岩と黒い綱の塊、仮称盾分体のうち、まず1つ、真西にあるやつを削り切る事にしたらしい。エルルとサーニャを含めた『勇者』にも声をかけて、主戦力を一点集中させたようだ。私もその後方でしばらくじっとしていたし。

 普通なら間違いなく過剰火力な戦力を集めて1時間かかった、っていうのが長いのか短いのかはちょっと判断がつかないが、どうやら仮称盾分体は地下へのちょっかいを出さず、中心の大岩から全ての黒い綱を剥がせばそのまま崩れていくらしい。

 まぁ崩れたと言ってもそれだけ巨大なモンスターを召喚する魔法陣になるだけであり、モンスターが出現する勢いとしてはマシになるどころかさらに激しくなるのだが、それは攻撃が吸収されないのを幸い、全力の広域殲滅系魔法や神の力を借りるアビリティを使えばいいだけなので。


「……中央の本体がよく見たら大きくなっている、ですか。まぁそうくるだろうとは思っていましたけど」


 1ヵ所1時間で済むのなら、あと7ヵ所あっても順番に回っていけばこのログイン時間内に全て撃破できる。のだが、観測班曰く、仮称盾分体を設置したレイドボス「縛り連ねる外法の綱禍」の大きさが、時間経過で大きくなっているらしいんだ。

 まぁ大きくなっているというか元に戻っているというか、もっと言えば回復してるんだろうが、仮称盾分体を出した時点で体力バーが見えなくなっているからな。外見の大きさがそのまま体力とは言えない相手だし。

 それでも全く無関係という訳では無いし、掲示板でも今の段階でそういう変化があるって言うのは回復以外にないだろうがという感じの書き込みがほとんどだ。私もそう思う。


「問題は、それが回復して更に時間がかかるだけなのか……一定時間以内に本体を再び削り始めないと「2撃目」が来るかって事なんですが」


 つまり、仮称盾分体が再び設置されるって事だな。

 ……たぶんだが、仮称盾分体のおかわりじゃないかなぁ。って気がする。だってそっちの方が嫌だからな。面倒だし時間がかかるし、それが一番イベント期間内に削り切れなくなる気がするから。

 とりあえず、1時間で仮称盾分体が1ヵ所削り切れると分かったので、司令部はまず半分削ってみようという方向で進めているらしい。当然私も、後方からの領域スキル展開のみになるが参加するので、移動している。


「半分削るのは賛成ですけど、恐らく全部削らないと本体には攻撃が通らないと思うんですよ。しかし悠長に盾から削っていくと、それはそれで時間が足りない気がしますし」


 正攻法ではあると思う。正攻法だとは思うんだ。盾から順番に削っていくっていうのが。それこそ、最初にロスした時間が無ければ、そう、イベント期間があと1週間あれば、それでも削り切れたと思う。

 本当にあのイベントページの仕様は正直最悪だったと思うが、それは既に司令部と元『本の虫』組も巻き込んで抗議メールをこれでもかと送っておいたのでさておいて。実際どうするかだ。この最終決戦前の状態で。

 流石にここで躓く訳にはいかないというか、せめて「縛り連ねる外法の綱禍」に捕まっている結晶化した精霊の救助だけでもしておきたい。そこまでいったら仕留められている気もするけど。


「綱のオリジナルの時は、結局何だかんだと言いつつその大半を燃やしてましたからね」


 湧き水の奇跡による水も大量に流し込んだし、その水だってエキドナ様の奇跡だから、敵対者=モンスターのリソースと相殺する形でダメージになっていた。なおかつ儀式場の石の温度をこれも奇跡を願って上げて温水にする事で倍率ドンだった。

 ただ今回、まぁ流石に学習したんだろうな。経験は引き継いでいないにしても、あれだけイベントダンジョンの中を燃やされれば対策するだろう。という事で綱を燃やすという時短は出来ない。

 しかしどう考えても時短する方法が無いと間に合わない。いやそりゃ最初の動きが悪くて時間をロスしたのは確かだが、あれはイベントページが悪いと思う。「第一候補」すら養護の言葉が一切無かったからな。


「そのやらかしの上に、いつもの情報の出し方下手過ぎ案件が乗ってますからねぇ……」

「ピュイ?」

「どうやってもっと一気に削ればいいんでしょうね、あの岩と綱」

「ピュィ……」


 ……。

 …………。


「……、いや」


 あーもう。

 口に出したら嫌な予感分類で心当たりが出てきちゃったじゃないか。

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