第2464話 72枚目:次の変化

 さて、そんな状態で、それでもいつもの時間のログインから内部時間で3時間ぐらいか。モンスターの数が多すぎて、もっと戦ってたような気がするな。私はお散歩なんだけど。

 それでも供給能力を開放しているし、後方にいるからと最大値の6割までは減るようになっている。その状態で全てのリソースが7割を切った状態のままなのだから、激しい戦闘が続いているのは分かり切っている。

 土地を取り返す工事も進んでいるのだが、なかなか目に見える変化はないようだ。まぁそうだな。影響度の勝負なんだから、急に変化したら召喚者プレイヤーも大変だ。主にフレンドリーファイア的な意味で。


「行動事故とまでは言いませんが、魔法やアビリティには必ずかかわる要素ですからね……」


 つまり、全ての攻撃だけでなく、移動等にも影響する訳だ。……いや、やっぱり多少の行動事故も起こるだろうな。特に空を飛んでいる人達が。制御力をちゃんと鍛えていたとしても、急に変化があったら姿勢ぐらいは崩すだろうし。

 そんな状態だが、それでもモンスターを薙ぎ払い、吹き飛ばし、黒い綱を切り続けたかいはあったのだろう。もしくは時間経過かもしれないが、私には分からない揺れ、つまり物理的な振動が起こった後、ドバ、と、エリア中央から黒い綱が、逆さになった滝のように噴き上がった。

 即座に司令部の人による指示で退避が叫ばれ、一斉に召喚者プレイヤーと住民の仲間が下がってくる。私も場所を開ける為と、流石に万が一だろうが、あの大量追加された黒い綱の射程がここまで届く事を警戒して、ルイシャンに指示を出して下がった。


「んん……?」


 最前線から下がって来た召喚者プレイヤーも同じことを考えたのか、工事現場の邪魔にならないようにある程度速度を落としながらも、私の下を通り過ぎて更に下がっていく。

 それはいいとして、問題はレイドボスだ。黒い綱なのだから「縛り連ねる外法の綱禍」だと思うし、恐らく体力バー(3段目)が7割か9割に達したから起こった特殊行動もしくは行動変化なのだろうが、噴き上がった大量の黒い綱が、8つの塊に分かれて等距離に落ちて行ったのだ。

 いや、落ちて行ったっていうのは正しくないか。8つの束に分かれて弧を描いたって言うべきだな。円を描くように。これだけなら、それこそ骨組みだけのドームみたいな形をもう一度か、と思う所なのだが。


「何か先端に、岩のような物が抱え込まれているような……?」


 滝を逆さまにしたような、と思っただけあり、黒い綱の量は当然多い。8つに分かれてもまだ多いし、それはすなわち全体で見ると太いって事だ。だがそれにしてもちょっと太すぎるような気がしたんだよな。特に、先端だけが。

 綱というだけなら、先端は細くなりそうなものだ。その後地面に刺さるのならばなおさら。だというのに太いのが引っかかって目を凝らしてみたんだが、どうもその太くなっているのは、太くなった分だけの大きさがある岩が先端にあるからみたいなんだよな。

 もちろん遠くから見ただけだし、移動しているのだからじっくり見えた訳では無い。が。


「……まさか」


 私が思い出したのは、強制移動先のサイズ感がおかしい迷路、そこにあった部屋の状態だ。確かあそこでは中央に黒い綱を挽き出し続ける石臼が設置され、その周囲に黒い綱が張り巡らされていた。そして黒い綱を何本も結び付けられて結び目の役目を果たす、部屋の大きさ相応の巨大な岩・・・・も。

 黒い綱も大きな岩も、モンスターを出現させるか火の玉に魔力を注げば縮んで消えるという意味では同じだった。だが、わざわざ岩を結び目にする必要は無かった筈だ。綱同士で絡まって、部屋中を網のような形にしても良かっただろう。

 ではそこに必要性があったとすれば。黒い綱が、あの岩を結び目にする事で、ある程度回復し続けたりロスを抑えていたりしたら。いや、もっとそれ以前の話だ。そもそも、あの岩はどうやって出現した?


「まさかあの綱、ある程度のリソースを使えばアイテムの、それこそ別のレイドボスの一部だって作成か生成が出来るのでは……!?」


 つまり、本当に最悪の……相互回復が可能なタイプのセットボス、って事に、なる。

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