第2462話 72枚目:現在の状況

 まぁでも、大体の召喚者プレイヤーにとっては制限のない通常空間で、ひたすらに湧いてくるモンスターをなぎ倒し続けるだけでいいなら、それが一番賑やかで分かりやすいだろう。撤退も応援も可能だし、補給も受けられるし、土地を奪い返す工事が進めば神の力を借りるアビリティの威力も上がる。

 だから大丈夫な筈だ。と思いながらもしっかりと準備をして、私も最前線に移動した訳だが。


「うーんこれは酷い」


 確かにモンスターの群れを迎撃するだけだ。どうやら綱が切れる太さは直径10㎝まで太くなったようで、今も空中を飛び回る召喚者プレイヤーによって、バツンバツンと綱が切られている。切られた後は地上に落ちて、モンスターを召喚する魔法陣になるんだろう。

 ただ、そのモンスターの群れの数がなぁ……時々台車に乗せた防衛兵器か、或いは竜族のブレスか、もしくは高威力の神の力を借りるアビリティで広い範囲が薙ぎ払われているんだが、それでも減った気がしないんだよなぁ……。

 何だろう、零れ続ける水を拭きとり続けているような気すらするな。元栓を締めるべきなのだが、今回の場合元栓はどちらもレイドボスだ。恐らく数を増幅している「均し富める模造の禍臼」を何とかすればいいのだろうが、その為には「縛り連ねる外法の綱禍」を何とかしなければならない。


「やっぱりこれは手を組んではいけない組み合わせでしたね。相性が良すぎて大惨事じゃないですか」


 そう言う私はこうなる前と同様、領域スキルを範囲重視で展開した状態で供給能力を開放し、後方でお散歩である。ルイシャンも頑張ったらしいんだが、流石に丸1日以上戦い続けるのはキツかったようだ。ちょっと凹んでたからな。

 なおエルルとサーニャも強制移動させられていたが、あの2人はあっさりと最奥に辿り着いて、そのまま追い出されていたらしい。まぁ、だろうな。『勇者』なんだから、問答無用で追い出すだろう。

 ちなみにここまでの密度になって時間もいい加減ないのだから、奇跡によって燃やす事も検討されたし、実際ちょっと火をつけてみたらしいんだが。その結果は、火が消えるまで真っ黒い綱が狂ったように周囲を叩きまくってその勢いで千切れ、四方八方にモンスター召喚の魔法陣を出現させた、というものだった。


「あの黒い綱、燃えないんですか。まぁレイドボスではありますから、直接は燃えないんでしょうけど」


 なおその叩きまくる勢いでモンスターも召喚者プレイヤーも住民も関係なく吹き飛ばされ叩き潰された上に、風圧その他でごちゃまぜにされた上で距離も方向もランダムに吹き飛ばされたので、その後の混乱がすごかったらしい。なので燃やさずに戦う方向になってる訳だな。

 しかし、本当に酷いな。相手のリソースの事を考えると、息切れするのは間違いなくこちらだろうし。もちろんこうして綱を増やしている以上、「均し富める模造の禍臼」の体力は減っていて、ある程度は「縛り連ねる外法の綱禍」も連動しているんだろうけど。

 でもまだ「縛り連ねる外法の綱禍」の方に捕まっている結晶化した精霊は救助できていない。という事は、今もまだ結晶化した状態で動力にされているという事で。


「一応モンスターそのものは普通なようですし、戦場の広さ的に限界はあると言っても、領域スキルを押し付けてキルゾーンを作るぐらいは必要なのでは……」

「ピュイ?」

「まぁこのお散歩もとい見回りも大事なんですけどね。工事が進むに越した事はありませんし」


 前に出るの? みたいなルイシャンの首筋を撫でつつ宥める。敵を倒せばレベルアップするのは間違いないので、強制移動からの息切れで戦線離脱する事になったルイシャンは戦闘に積極的だ。落ち着こうか。

 順調に綱を切る事は出来ている。綱を切った時点でレイドボス自身のダメージにはなっている筈だし、すなわち体力は削れている筈だ。……問題は、少なくとも私からだと体力バーが見えないって事だな。

 2体のレイドボスで体力まで完全に共通なのかどうかは分からないが、体力の節目で行動変化か特殊行動があるのは変わらないだろうし。それに若干、脱出する時にちらっと見えた、「均し富める模造の禍臼」が挽き出そうとした「何か」が気になるっていうのもある。絶対碌でもないもの、っていうのは確定してるんだけどな。状況的に。

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