第2461話 72枚目:外の状況

 強制退出は、領域スキル同士の押し合いに近いのだろう。記憶にある限り私が完全に押し負けたのは南北の大陸に突入する時ぐらいだが、今回が2度目という事になるだろうか。

 どうやら無事、逃がさない、より、出ていけ、の方が勝ってくれたらしく、念の為全員を包む形で張っておいた防御の表面が何かで叩かれる音が響いた。反射的に閉じていた目を開くと、振り回される黒い綱とモンスターの群れに囲まれている。


「――通常空間への帰還成功! 直径5㎝以下の綱を切って退路を作って下さい!」


 どうやら追い出された時に防御魔法がモンスターにぶつかった音だったらしく、躊躇いの無いモンスターによって袋叩きが始まったが、司令部の人の判断も早かったし、それに応じるベテラン勢の行動も早かった。具体的には、私が何かする暇はなかった。

 けどまぁ、脱出する方法として領域スキルを最大展開していたのも良かったらしく、外からも綱を切る動きがあって無事に脱出できた。結晶化した精霊さんは大人しかったが、それでも抱えたまま後方に下がる。いやだって、ログアウトしないといけない時間が。

 完全に取り戻した土地まで戻ったところで現地の精霊さんに結晶化した精霊さんを預け、私はクランハウスに戻って即ログアウトだ。


「危ない。滑り込みでもセーフで良かった」


 ギリギリとはいえ晩御飯は食べられたので良し。そこからはいつも通りだ。ただ今日の残りログイン時間は2時間半ぐらいなので、早めにログアウトする事になるが。

 フラグを踏んだ状態で脱出してそのままログアウトしたので、戻るのがちょっと怖いって部分も無くはないんだが、うん。そこはまぁ、結晶化した精霊さんを救出しないって選択肢は無かったし。

 という事で、いつもの時間にログイン。ふかふかベッドの有難みよ。さてそれはそれとして、掲示板を確認だ。


「……」


 分かっていたが、大変な事になってるなー……というのが総括した感想だったんだが、具体的に言うと。



 あの超広域強制移動、前兆が無かったのは当然ながら、私が巻き込まれたことから分かる通り、工事現場まで効果範囲に含まれていたらしいんだ。もちろんモンスターの群れと戦っていた最前線は丸ごと巻き込まれている。だからこの時点で、現場はかなり混乱したそうだ。

 その状態でもモンスターの群れは出現し続けているので、慌てて野良ダンジョンを攻略していた戦力の一部に声をかけて最前線に戻ってもらったらしい。それにログインのタイミングがずれたとかで無事だった人もいて、どうにか立て直すことが出来たようだ。

 だがそれでも、深夜を過ぎても消えた召喚者プレイヤーと住民、あと主に工事現場にいた精霊が戻ってこないっていうので、イベントダンジョンへの突入を一旦中止、通常空間での戦線維持を優先する指示を司令部が出したらしい。



 ところが、リアル深夜過ぎから未明の間に、最前線に居て行方不明になっていた住民の仲間が多数死に戻って来たらしい。どうやら彼らは同じくサイズ感のおかしい迷路の中で迷い、疲れ切って動けなくなったところで倒されてしまったようだ。

 ただそのサイズ感のおかしい迷路、というのは、イベントダンジョンでは出てこなかった形らしい。よって司令部は、現在強制突入状態になっている召喚者プレイヤーと住民が全員追い出された場合、2度目の超広域強制移動があると判断、準備をしっかりしておくように、と勧告したようだ。

 だがそうして勧告し、警戒しながら最前線の維持を続けていたものの、明け方にぽつぽつ召喚者プレイヤーが死に戻って来ただけで、特級戦力というか、私の事だな。私を含めたベテラン勢は戻ってこない。


「で、どういう事だと思いながら戦闘を続けていると、途中からモンスターの群れの絶対量が激増、対処している内に黒い綱が地下から吹き上がって地面に突き立ち始めて核が出現、名称確認と」


 そして主に綱の直撃を貰わないようにしつつ、出来る限りのペースで綱を切り続けていたと。で、途中で内部と(リアル経由)で連絡が取れた結果、私がベテラン勢と一緒に最奥でフラグ踏んだというのが伝わったようだ。

 もちろん夕方になったら脱出を試みるというのも伝わっていたので、それで通常空間に戻ってからの脱出がスムーズだったんだな。まぁ来ると分かっていれば、領域スキルが展開された瞬間に攻撃を集中させればいいだけだし。

 で、ここまでが、私が戻ってくるまでの情報なんだが。


「野良ダンジョンの出現数が激減、世界各地の神殿への干渉力も低下したのは良しとして……空間の罅割れが、黒い綱を、積極的に吸い込むようになりましたかー……」


 結晶化した精霊の集団を救助したのはいい。おそらく間違っていない。空間の歪みに手を出す余裕が無くなったというか、「均し富める模造の禍臼」が稼働する為に消費するようになったんだろう。

 だがその分だけ、綱の量は爆増しているようだ。どうしてそういう行動になったのかは分からないが。

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