第2460話 72枚目:脱出試行

 そこからもうちょっと時間が経過したが、流石に何も手掛かりが無さすぎて、これは一度全滅するか領域スキルを大規模に展開して強制退去になるしかないか、となっていた。皆で私にしがみついてもらって、その状態で領域スキルを全力展開すれば生きて脱出できないだろうか。

 ただその場合不安なのが、レイドボス「均し富める模造の禍臼」本体、巨大な石臼の、石の持ち手の天辺に埋め込まれている結晶化した精霊達だ。本体と戦えなくなるって事は無いだろうから、救助できないって事もないんだろうが……状態は悪くなるだろうな、と。

 なので、出来れば救助しておきたい。それはベテラン勢も同意だったようで、どうにか本体に近づけないか、という試行錯誤に切り替わった。


「ギリギリ一応、あの罅割れすり抜けて近寄れるルート自体はあるっぽい」

「ただ、モンスターの出現がきっついわ。小人数だと無理」

「そういやあの罅割れに領域スキル当たったらどうなんの?」

「反撃が来ますね」

「領域スキルもカウンター対象なんか」

「あ、そういやお前ログアウト中だったな」


 まぁ、うん。既にそれもやったんだが、分かっていたので出力を下げてちょっと触れるだけにしておいた。領域スキル属性の魔法の矢は凶悪だったよ。

 それはともかく、本体に迫れるルート自体はあるようだ。もちろんモンスターは大量に出てくるから、それを撃破しないといけないしその数が尋常ではないようだが。

 それでも近寄れるなら話は別である。それに精霊さん達に聞いたところ、どうやらギリギリ連絡が取れるらしいんだよな。なので、あの石臼の持ち手を砕いて本体から外せば、どうにか逃げて外れてくれる手はずとなっている。


「近づいて攻撃して回収、そしてそれが出来次第全員で固まって、私が領域スキルを最大展開。これで結晶化精霊ごと強制退去による脱出……に、なればいいなって事ですね」

「そうですね」

「逃がしてくれるかは分からんがな」

「それはそう」

「追い出し部分が変わって無ければ大丈夫」

「逃がさんが勝った場合どうなるんだ?」

「大人しく全滅するしかない」


 そんな会話をしつつも全員覚悟完了し、ログアウトしていた人達にも説明して了解を貰ってから行動開始だ。どうせ夜のルーチンという名の日常に戻んなきゃいけない時間は迫ってるから、どっちにしろ脱出を試さないとダメだし。

 司令部の人の号令で、私が領域スキルの展開範囲を縮める。そこからルートを探しに行った人を先導に、全員で固まって空間の罅割れの隙間を通るルートを突破だ。

 モンスターが山ほど来る都合上、これぐらいの人数だと通れる幅で良かったよ。途中からルートの再探索で引き返したりする場面もあったが、まぁベテラン勢ぞろいなので。


「とうちゃ、やっべちぃ姫領域スキル! 状態異常ダメだ!」

「そりゃま本体だからそうだろうがこれだからレイドボスは!!」


 到着した時にそんな事もあったが、ここでも半径2mならまだ追い出されないらしい。という事で、空回りを続ける本体からはモンスターが出てこないのもあり、固まった状態で持ち手の上部分に近づく。

 召喚者プレイヤーの何人かが斬撃属性のアビリティを発動して……よし! 斬れたし外れた!


「なぁ何かヤバい音してね?」

「石臼が怒ったんだろ!」

「回収成功!」


 その途端、「均し富める模造の禍臼」本体から異音というか、ギギギガガガみたいな石が激しくこすれるような音が聞こえ始めたが、構っている暇はない。

 結晶化した精霊が私に投げ渡され、それを受け取った段階で召喚者プレイヤーが全員集まって私の旗槍を掴み、その外側ではお互いに掴まりあっているのを確認。

 視界の端に、レイドボス「均し富める模造の禍臼」が上下の石の隙間から何かを溢れさせつつあるのを見つつ、領域スキルにリソースを叩き込んで、最大展開した。

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