第2396話 71枚目:一段目突破

 司令部が方針を変更してからも攻略ペースは変わらず、どころか、難易度が下がった分だけ攻略タイムは短くなり、結果としてイベント3度目の土曜日の昼には、残ったイベントダンジョンは数えるほどになっていた。

 もちろんベテラン勢はしっかり準備を整えてポータルの近くで待機しているし、クランハウスにメインメンバーを戻しているクランもある。私は最前線で待機しつつ、種族特性のバフを撒く係だな。

 なんて思っている間に、異界強度難易度一桁のダンジョンが全て攻略されたらしい。開いていたイベントページの報酬項目、カード化した時のコスト増加の最後の1つが、キリの良い数字になった。


「……思ってたのと違う感じでしたね」

「何を想像してたんだ?」

「見た目には変化がなく、世界中の神殿への干渉が始まるかと」

「あぁ……」


 その瞬間、真っ黒い綱で出来たドームのようなものが震えだして、ばつん、ぶつん、と、勝手に表面の綱が切れ始めた。素早く確認してくれた司令部(観測班)の人からの連絡によれば、今切れているのは、異界強度難易度一桁のダンジョンに繋がっていたものと同じ太さの綱らしい。

 報酬が出尽くしたから、予備として残っていた分を自分で切っているのだろうか。少なくとも、繋がる先の空間は無くなっているだろうけど。むしろ空間が無くなったから切れているのか。

 結構な本数の綱が切れたらしく、遠目に見ると、一応、写真を撮って比較すれば分かる程度に、真っ黒い綱で出来たドームのようなものは小さくなったようだ。……それでもまだまだ大きさがあるんだけどな。


「一応、表層ぐらいは削れたでしょうか」

「思ったよりも見た目通りだったりするのか?」

「残り体力あるいはリソース、という意味では間違ってないかもしれません」


 あの肉の塊とかスライムとかが顕著だったが、見た目の残り体積がそのまま残り体力になってるっていうのは大体共通していたからな。たぶん、だいたい合っているだろう。

 そのまましばらく様子を見るが、とりあえずこちらにはこれと言った動きはないようだ。司令部の人やベテラン勢もメニューを開いたり何かやり取りしたりしているが、動き出す様子は特にない。

 ……既に3回目の土曜日に入ってるから、やっぱり3週間じゃどうにもならなかったのは明白なんだけどな。というか、1ヵ月あっても攻略できたかどうか怪しいだろう。最初の1週間の、熟練者向けの突入方法が分からなかった分のロスが大きすぎる。


「全体連絡来ましたね。……再突入しても内部構造に劇的な変化は無し。世界各地の神殿でも特に変化なし。野良ダンジョン試練モドキの急増なども確認されず。異界強度難易度19までの強化無し突入が可能になっただけ、と」


 ……。流石に構え過ぎてたか? イベントの全体図で行けば、序盤も序盤だろうし。その序盤も序盤、に、イベント期間の半分近くをかけてしまった訳なんだが。やっぱあの難易度上げる仕掛けが隠されすぎだろ。ロスした1週間分イベント期間を延長してほしい。

 ん、いや、もう一点変化があったみたいだな。強化無し突入だと「カードケース」が出ないらしい。……なるほど? カード化した時のコスト増加報酬か、「カードケース」かを選ばないといけない訳だな?

  まぁでも、その二択なら正直、選択肢になってないんだよなぁ。


「思ったよりも進捗が遅れている可能性がありますね。私達も低いところから回っていきましょう。エルルも竜族部隊の人達に、どんどん行って良しと伝えて下さい」

「消耗はいいのか?」

「構いません。というか現状既に遅れが出ているのは確実であり、それが下手をすれば既に致命的なものになっている可能性があります。それを挽回するんですから、消耗に構っていられないというのが正しいですね」

「分かった」


 何故なら既に「カードケース」は一通り確保してあるし、強化もしてある。それに一度に入れられる枚数が増えたところで、入れるカードの種類が増える訳じゃないんだ。

 それにもしこの先で「カードケース」の強化内容に「重複有効カードの枚数増加」があったとしても、その時だけ上の難易度に挑めばいい話だし。

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