第2395話 71枚目:節目誘発

 攻略の加速は止まることなく、3度目の水曜日が終わる頃に、一番異界強度難易度の低いダンジョンがイベントページに出なくなった、という全体連絡が回って来た。

 その時点で報酬となる項目は「種別:薬の消費コスト+5.0」であり、それ以降は同じ報酬が出なくなったので、たぶん報酬として出てくる項目が出尽くすと、難易度そのものが無くなるのだろう。

 やっぱボックスガチャじゃねーか。という声が掲示板で上がっていたようだが、たぶん間違ってないんだよな。だが、カード化する時のコストが1枚につき星5個分も増えると、だいぶ余裕が出来る。


「お嬢。何か難易度の低いところに戦力を集中させるって連絡があったが?」

「あー……難易度による補正なしでも十分挑めるようになったから、簡単なところから詰めて行こうって話ですね」

「?」


 ただ、それでもまだ流石にクラン単位で突入するのはちょっと厳しい。ので、司令部はここで方針を変更し、数をこなして取れるだけの報酬を取ってから高難易度に挑む事にしたようだ。

 司令部の更新する全体連絡用スレッドによれば、ひとまず異界強度難易度が一桁のダンジョンを一掃、もとい攻略し尽くすところまではこの方針を維持するとの事。カードケースが出る手前までか。

 ……いや、違うな。どうも司令部によれば、素の状態で突入できる異界強度難易度は9まで、つまり一桁までだったらしい。つまり、カードケースを出すには、絶対に異界強度難易度をわざと上げる必要がある。では、その前提で、素の状態で挑戦できるダンジョンが全滅したらどうなるのか?


「恐らく、そこが何らかの節目だと司令部は考えたのでしょう。もちろんそれ以上の難易度に挑戦し、無事に戻ってこれる戦力が参戦できるという前提ありきですが」

「……。そう言えばお嬢、確か大神の啓示で、世界全体に影響があるとかいう内容が無かったか?」

「ありましたね。どの程度かは分かりませんし、どうせこちらが踏み込むほどに反応は激しくなるんでしょうけど、そろそろ一旦確認しておいた方がいいでしょう」


 たぶんそういう事だな。お知らせにあった「一定ラインを越えたら神殿に影響が出る可能性がある」ってやつの確認だ。

 神殿に影響っていうか、神殿が野良ダンジョンに乗っ取られかけるんだろうなというか。戦力を世界に散らす必要が出るよって事なんだろうけど。

 なお、難易度を上げるとカード化した時のコスト増加報酬が出ない。つまり、ダンジョンを殲滅する事は出来ない。それはつまり、その「一定ライン」を越えないまま攻略を進める事が出来る、って事でもあるんだが。


「わざわざその反応を引き出すのか?」

「手綱は握れる範囲なら握っておいた方がいいですからね」

「……なるほど」


 こちらが「一定ライン」を越えなかったからと言って、相手が大人しくしてくれる訳では無い。むしろ、こっちの主戦力が何らかの形で動けなくなったときに、何段階か分をまとめた影響を及ぼしてくる、って事もあり得る。

 だからこっちでコントロール出来るもんならしておきたいし、備えられるうちに反応を見ておきたい。そしてそちらにしっかり対処してから、更に攻略を進めたい。後ろが安全なのは当然だが、危険でも状況が分かっている方がまだマシだからな。

 それに、そうやって行動をさせる事で、更に向こうのリソース消費が加速するだろう。今まで無限湧きかと思うほど潤沢なリソースを持っている相手ばかりだった事を思えば焼け石に水かもしれないが、それでも削れるなら削るに越した事はない。


「それに、挑める場所の低さを押し上げて、住み分けを進めたいんでしょう。その方がどちらにとっても平和ですし。色々な意味で」

「……」


 うん。後続組の召喚者プレイヤーがベテラン勢に喧嘩を売ったり、住民の仲間をNPC呼びして頭ごなしに命令したり、って話がちらほら出てるみたいだからな。

 大丈夫。ちゃんとやる気があって最低限の気遣いが出来る人は、ベテラン勢に大事に育ててもらえるからこの後も続けて参加できる。いやー、何気ない行いとか態度って大事だよね。

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