第2346話 70枚目:推定ギミック

 その後しばらくして正式な全体連絡が回って来たが、そちらでも「全員の証言が一致しない」という結論が出ていた。もちろんそれぞれの証言は別で記録して、なんなら調査中に観測班が撮影していた動画も一緒に公表されている。

 のだが……撮影されていた動画では、ただひたすら何の変化も無い、暗い色の金属質な構造物で出来た大部屋を移動し続けるだけだったし、その動画を撮影した観測班の人の証言もそうだった。

 ただ、他の人の、バラバラの証言の内容をよくよく確認してみたら、だな。


「……あー……」

「どうしたお嬢」

「いえ……周辺調査の人達の、証言がバラバラだって話が回って来たじゃないですか」

「来てたな」

「で、その話の内容を1つ1つ確認してたんですが……それがどうも、ここまでに突入してきたイベントステージ亜空間の内容っぽいんですよ……」

「……、ここまでの?」

「ここまでの」


 全部合わせると当然何が何やらになるが、1人ずつの証言だけを確認するなら、たぶんここまでの、どこかのステージに出てきた光景や仕掛けになるんじゃないかな、という気がしてきた。ベテラン勢がごそごそ話し合いをしているので、恐らく結構な人数が気付いているだろう。

 という事は司令部も気付いている筈で、問題は、集団行動してても1人1人違う光景が見えたって事だ。何せ今回のはギミックボスとギミックステージなのだから、ただ見えて終わりって事はまずありえない。

 じゃあ何で見えたかっていうと、たぶんだが、突入できるという事だろう。もしかしたら後で、ここまで登場してきた小粒のレイドボスステージボスが、取り巻きとして鎧付きで勢揃いする、みたいなことになって、ここで削っておけばその数を減らせるって可能性もある。


「そしてもし突入して削る必要がある場所だった場合、せめて1パーティはいないとどうにもなりません。出来るのなら、クラン単位で突入しておきたいところです」

「……なるほど。1人1人見えてるものが違うんなら、最悪その見えてる1人だけで突っ込む事になるのか」


 そういう事だな。もちろん、誰かが選んだ光景(ステージ)に、その場にいる全員で挑戦する、って形になる可能性もあるんだが。まだその突入方法も分かっていないので、情報が足りていない。

 まぁでも何かは見つかったというか、その食い違う光景が見え続ける事を確認してから探索班は戻って来たので、次にやるべきはその検証だ。なので、さっきより大人数の召喚者プレイヤーが集団となって出発していったのが見えた。

 今度は同じ光景を見れるかどうか、そして突入できるかどうかの検証からやるのだろう。もし突入出来たら、ここに戻ってこれるかどうかもかなり大事だし。何しろ、通常のイベントステージは、クリアしたら通常空間に戻ってたから。


「その光景に突入出来たとして。ステージへの再挑戦と同様の扱いだったとして。まず戻ってこれると思うんですよね。そしてここからの突入とクリアの件数が増えて、あの硬さがマシになったら、領域スキルによるダメージが通るのも妥当になりますし」

「そう言えばそこを随分気にしてたな。そんなにおかしいか?」

「こいつの大元になったやつを思い出してください。攻撃を普通に通す為にどれだけ手間暇かかった事か」


 まぁ途中から、気配を消せば攻撃を通せるんじゃないか? って気付いたエルルによって一気に削れたけど。あれを正攻法で削ろうと思ったら、もっともっと時間がかかっていただろう。それが、更に厄介になってるんだぞ?

 だから最初聞いた時、びっくりしたんじゃないか。嘘だろ、通るの? って。そして実際ダメージが通って更にびっくりしたよ。確かに減り方は遅いけど、それでも普通に攻撃してダメージが通っただと? って。


「正直、どんなギミックがあるか分からない以上、このまま削ると詰みそうな気すらしてましたからね」

「……」


 若干エルルから「それはそれでどうなんだ」みたいな視線が来たが、私だけじゃなくて、ベテラン勢は皆そういう心配をしてたと思うぞ。だってそれぐらいにはギミック尽くしだったからな。

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