第2314話 70枚目:地下行動

 エルルはどうやら1時間に一度来てくれることになったらしく、表で動いている方は、とりあえず今の所順調なようだ。平和で良かった。薄氷の上に乗ってるようなもんだが。

 どうやらこちらも研究所の周りに空間的な防御システムがあり、そこに何かしらのモンスターが干渉して居座っているらしい。それを討伐する為の準備をしているんだそうだ。今回はどんな奴だろうな。

 まぁ、そいつと私が戦う事は無さそうだが。どんな奴だろうと、研究所本命を少しでも早く潰す倒すために、研究所本命に対する怒りの八つ当たりも含めてボコされるだろうし。


「そうだお嬢。確か、不死族を解放できれば後が楽になりそうなんだよな?」

「えぇ。魔法系の研究をしていた方のようだったので」

「そーいえば、あの人にかけられた罠だけ微妙にボロくなってたっすね」

「……話に聞いただけでも相当な状況だが、その状態でも干渉してるんだろうな。なら研究分野に入ってるのは間違いないか……。どうもこの階層の管理をしてる部分が見つかったらしくて、1つぐらいなら部屋の仕掛けを止められそうだとの事だ」


 わぁ。……カバーさんかな。カバーさんだろうな。あの、にこ! という笑顔が見えるようだ。いつもの微笑みと同じに見えるけど、輝きと圧が強いあれ。そっかー。部屋1つなら仕掛けを止められるかー。

 まぁでも、どこか1つならもちろん不死族の人だ。部屋の仕掛けが止まれば、あの杭を引き抜いて壊すことも出来るだろうし。あの罠は掛けられた本人が回復しても発動する(資料に書いてあったから確定情報)が、あの状態でも干渉できるのなら、発動する前に自分で壊せるだろう。


「何なら、あの杭を引き抜くのを途中で止めればいいだけですしね」

「助けようとしても発動するんじゃなかったか?」

「いやそれが、意外とそこの判定が雑だったんすよ。不死族の人を助ける為じゃなくって、杭自体が気に入らないからとか杭を交換する為とかだと、引き抜いて壊してもたぶん大丈夫っす」

「……それは確かに雑だな……今回は助かるが」

「資料を見た限り、ですから、まだ実際には試してませんけどね」


 どうやら止めようと思ったらいつでも止められる状態のようなので、早速不死族の人がいる実験室に移動して、その入口を封鎖していた魔法を解除する。周りから何か来る気配は……無いな。よし。

 もちろんこの実験室の中も罠があるんだが、トラップハウスって程ではない。解除は出来なくても回避は出来る。正直、何かの方法で無効化できるのなら床一面にびっしり、というのも有り得るかと思ったんだが……罠を設置すると、その分だけ維持費的な魔力が必要になるみたいなんだよな。

 当たり前だが施設用の魔力源は存在する。その上で捕まってる被害者たちから、拘束も兼ねて搾り取ってはいる。ただそれでも足りないらしく、まぁ、つまり、ケチった結果こうやって突破されてる訳だ。


「防衛関係をケチると碌な事になりませんね」

「全くっすね」


 最終防衛ラインや万が一の時の保険になるんだから、可能な限り充実させておくべきだよな。使わないものにどうしてそんなにお金をかけるのかと言われるが、皆怪我とか病気に備えた保険料はしっかり払ってるじゃないか。それが組織や国っていう単位になるだけだろ? 防衛に関する費用ってそういうものだぞ。まぁ正確に言えば違うのかもしれないが。

 で、しばらく待っていると、部屋を囲む形で動いていた何かの術式が止まるのが分かった。上手くやってくれたらしい。予備システムみたいなものは……とりあえず部屋の中から感知できる範囲では無いな。


「さて。ジンペイさん、今から杭を外して別のに変えますけど、大人しくしてて下さいね」

「ついでに自分にかかってる魔法を何とかしてくれると手間が無くていいっすね」

『……ふ、は。止まった、な。あぁ、無論。すぐ、かかろう』


 あちこち変色したり欠けたりしている骸骨が、無数の杭で埋まるようにして壁に張り付けにされている。この骸骨が不死族のジンペイさんだ。この通り、口の中まで杭で縫い付けられても辛うじてとはいえ喋れる人だ。

 杭の破壊方法は、私が真っ二つに折ってインベントリに放り込んでおけばいい。引き抜くのはフライリーさんも出来るからな。さくさく引き抜いていこう。杭の代わり? 柔らかくて大きなふわふわ毛布だが?

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