第2313話 70枚目:地下待機

 まず実験室の入口周辺の罠をフライリーさんに可能な限り解除してもらい、物理的及び魔法的に実験室の入口を封鎖。強行突破しようと思うと私でもそこそこ苦労するぐらい念入りにしておいたので、たぶん大丈夫な筈だ。

 そこからエレベーターの近くに戻り、エレベーターを囲む形で同じように封鎖。ただしこっちにはカウンター系の魔法を含めておいたので、エレベーターから出ようと思った時の難易度はさらに高い。

 で、もうちょっと難易度を落としてエレベーターがある部屋の入口を封鎖。どっちにしろ私とフライリーさんが術者だから、解除すればいいんだが……まぁ一応、念の為だ。魔族は魔法の扱いに長けるんだから。


「ま、罠の形や仕組みも可能な限りスクショで記録しましたし。カバーさんならさくさく解けそうな気もするんですけど」

「それは分かるっす。……あの人も怒ると怖いっすよねぇ」

「うちに怒らせても怖くない人はいないのでは?」

「それもそうっすね」


 誰を怒らせようとも酷い目にあうだろうな。怒らせた方が。ま、誰も理不尽な事では怒らないから、怒らせた方が悪いんだが。

 という感じで防御を固め、ついでに資料そのものに何か仕掛けられている可能性を考えてフライリーさんと相互で防御系のバフをかけあう。そして手分けをして資料の確認を始めた。

 ……まー、中身の最低さと、あ、これ絶対反省しねーわ、っていうのはともかくだ。有益な情報があるかどうかだけ意識しよう。具体的には被害者の身動きを封じていたり、仕掛けられてた魔法を解除する為の情報。


「ふむ……魔法に関しては当然と言うべきか、きっちり制限をかけているようですね。当然でしょうけど。その人数が、研究所全体から見ると少数なのはまだ幸いでしょうか」

「全員が関わってるって訳じゃないのは幸いだと思うっすよ。研究所自体は潰すのに賛成っすし、知らなくても連座である程度罰は与えられるべきだと思うっすけど」


 一方、魔法以外のもの、それこそ不死族の人に突き立てられていた杭とか、竜族の人達を繋いでいた首輪(手枷と足枷も含む)とそこに繋がる鎖とかはそこまで厳しい制限はないようだ。とはいえ、触る場合は部屋に仕掛けられた魔法が反応するようになっているらしいが。

 ……竜族の素材を得る為に必要な栄養素が多い? ははは、当たり前だろ。竜族はたくさん食べるからこそステータスの暴力っていう種族特性なんだから。大食らいで効率が悪いとか愚痴るなら手を出すなっつぅんだよな……!

 おっといかん。資料を握り潰すところだった。念の為手袋を着けてから確認しているが、それでも余計な事はしない方がいいからな。


「というか、食べる量は成長率に反映されている訳ですから、更に効率を上げる為の改造案とか出す前にやるべき事があるだろうって話なんですよね……」

「完全に素材の採取ポイント扱いっすね。そいや先輩、不死族の人のコピーってあれ、一体何だったんすか?」

「制御不能で討伐対象になる感じのアンデッドですね。ただ普通に培養しても上手く行かなかったらしく、最終的に本人の骨の一部を切り離して、アンデッドにはなっていない死体に組み込んだようです」

「わー、思った通り最低だったっす。てか、それでも不死族にはならなかったんすよね?」

「ならなかったようです。だから死者としての数もダントツで少なかったんでしょう」


 なんて会話もありつつ資料を読み進めているが、ほんっと今すぐティフォン様に奇跡を願って丸ごと吹っ飛ばしてしまいたくなるな。たぶん消し炭も残らないぞ。そしてあの神様容赦ないから、実行犯達は火達磨になったまま当面生きてるとかになりそう。

 ただそうすると、間違いなく被害者も巻き込まれる。それはちょっと。竜族の親子は助かるかも知れないけど、不死族の人と神獣はたぶん巻き込まれる。それはな。ちょっとな。


「あ、もういっこいいっすか先輩」

「何個でもいいですよ」

「あの神獣って何なんすか? 人面牛っぽかったっすけど」

「あー……【鑑定☆☆】結果を信じるなら、白沢ですね」

「はくたく。んー、何かで見たか聞いたことがあるような……」

「だいぶマイナーではあります。というか、私もだいぶうろ覚えですし。……しかし白沢だとするなら、胴体の傷はあれ、目とか角とかがあったのをこう……毟った、跡ではないかと」

「めとかつのとかをむしったあと。……お肉を持って行ったにしては妙な位置と大きさだなとは思ったっすけど……!!」


 確かこう、出会うと知識を教えてくれる系の瑞獣だった筈だ。人面をしているだけあって人の言葉も喋れる。

 ……やせ細って骨が浮いてる状態の上に、今言った感じの推測が出来る傷がたくさんついてたけどな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る