第2312話 70枚目:方針決定

 エルル達の方もそういう感じだったので、大人しくしているが油断せず、可能な限り研究所の中を探っていたんだそうだ。カバーさんに至っては、友好的に有能さを示して、その裏で端末にハッキングをかけていたとの事。本当に何でもできるな。

 それでも私とフライリーさんの行方は分からなかったものの、どうやら通常手段では行けない場所への干渉の痕跡と、その場所を空間的に隔離しようとする動きがあったらしい。ただそれは何故か上手く行かず、したくても出来ない、という感じだったようだ。

 ……まぁ、間違いなく私とフライリーさんがここにいるからだな。という事で、空間の完全隔離を阻止する為に、私とフライリーさんはここで待機、という事になった。


「まぁ定期的に様子は見に来るが、相手有利の閉鎖空間だからな?」

「もちろん分かっています。最悪、空間ごと吹き飛ばして脱出します。もちろん要救助者の事を考えると最終手段ですが」

「領域スキルに反応する罠だけでも解除したいっすねー。かなり厳重だった上に時間制限がついてたんで、ちょっと厳しかったんすけど」


 エルルに念押しされてから戻るのを見送り……種族特性で姿を消す時みたいな感じで、ぱっと消えただけだが……さて、と息を吐く。

 罠の解除なんて私に出来る訳もないし、あの概念レベルの捕縛魔法、恐らく魔法をかけられている相手が一定以上回復しても発動する感じだった。だから被害者の回復も出来ない。

 かといって、のんびり生産作業が出来る程ここは安全じゃない。正直に言えば、私の認識は「敵地」だからな。警戒を緩める理由がないし、緩めたらダメだろう。


「せめてあの、不死族の人を拘束していた杭だけでも外せればいいんですけど」

「あー、あれっすね。骨状態でも生きてるのはともかく、骨の隙間という隙間に突き立てられてた「魔力と体力スタミナと生命力を限界まで吸い取り続ける」やつ」

「かなりキツそうでしたが、それでも喋れるだけの気力があったようですし。どうも研究対象が魔法系だったようなので、解放できればこの辺の仕掛けも全部解除してもらえると思うんですけど」

「その前に、元凶が全員のろわれません?」

「使えるなら可能性はありますね」


 結果、とても暇になる訳だが、まぁ仕方ないな。しっかり追い詰めて捕まえる為には必要な事だ。暇だと怒りもぶり返してくるんだが、そこはこう、ぎゅっと、抑え込む感じで。


「……どっちみち最低の最低には違いありませんし、エレベーターを囲んで隔離してから、持ち出せた範囲の資料の確認でもしましょうか」

「そっすね。ちょっとでも情報は多い方がいいっす。この辺りは空間的にいじれないみたいっすし」


 ただ、本当に何もしないって言うのも時間がもったいないので、ざっと眺めてインベントリに叩き込んだ資料やメモ書きの精査でもするか。一応防御は固めた上で。

 と、提案すると、まず頷いてくれたフライリーさん。が、続いてちょっと首を傾げた。


「……エルルさん達の対応しながらこっちに来るほどの余裕はないと思うっすけど」

「念の為ですよ。何せここは、相手のホームグラウンドですからね。……一応、部屋の入口も塞いでおきましょうか」

「何か特殊な空間みたいっすから無いと思うっすけど、他の出入口があるかもしれねーっすからね。……それだと、実験室の入口は全部塞いだ方がいいっすかね?」

「そうですね。ぐるっと回って念入りに塞いでおきましょう。魔力を吸い取る罠だけは解除しておかないと、厄介な事になりそうですが」

「っすね。いやーそれにしても、護身術が早速お役立ちっす」

「ますます頼りにさせて頂きます」


 いやーほんと、更に可愛くなった後輩がとっても頼りになる。この手の強度があって効果が継続する系の罠は、私だとどうにもできないからなぁ。

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