第2221話 69枚目:決戦開始

 夜のログインの予定としては、まずいつもより早い段階でログインし、そのまま「敵を与える」奇跡をスタート。エリア中央が確認できるところまで黒く濁った水で出来たような円盤を削り切る。

 ここでリアル1時間以上かかるのは確実なので、私(と「第一候補」)はここで一旦ログアウト。連続ログイン制限のリアル30分が開け次第再ログインして、相手の様子を確認。

 他の場所から黒く濁った水のような物が集められて再び分厚い壁になっていればもう一度「敵を与える」奇跡を願う事になるし、エリア中央を確認した事で何か大きな動きがあればそのまま戦闘に移る。


「何か大きな動きというか、ここにいる復活レイドボスがアクションを起こしたら、でしょうけど」

『まぁそれはそうであるなー』


 という会話の後で司令部の指示が響き、「敵を与える」奇跡を願うのをスタートしたのは良い。

 相変わらず外は地獄(意訳)だったようだが、今回は儀式場まで影響が出る事は無く進んで、少なくとも一旦ログアウトするまではそのままか、と思ったら。


「ぐ……っ!?」


 突然。

 何か弾かれるような感覚と共に、右腕が、血塗れになった。


『いかん、一度中断である!』


 動きの途中でそんな事になった訳だが、幸い私のステータスは高い。ギリギリファンブルは避けたのだが、直後に「第一候補」からそんな声が上がった。

 当然私もそんな状態だ。素直に従って奇跡の終了を願う。あーもう、感謝祭の衣装が血塗れ。お掃除魔法なら落ちるだろうけど、何てことしてくれるんだ。

 ではなく。


「お出ましですか?」

『で、あろうな』

「分かりました。私はこのまま着替えて前に出ます」

『我も衣替えの後、全体支援に入るである』


 たぶんここまで強い影響って言うと、復活レイドボスしかないよなぁ……。っていうのを確認すると、「第一候補」もそう思っていたようだ。本命が出てきたんなら、特級戦力として動くべきだろう。

 という事ですっと下がってインベントリからの一括着替え。からの、更に増築が進んだ要塞の適当な窓から外に出て、屋上へ移動だ。もちろん着替える前にお掃除魔法をかけているので、怪我した痕跡は残っていない。


「お嬢、どうした!?」

「儀式に影響が出たので中断して、そんな影響を出せる相手となると元凶以外ないでしょうって事で外に出てきました。状況は?」

「中まで影響出てたのか。こっちはいきなり召喚者がバタバタ倒れて大騒ぎだ。俺とアレクサーニャは平気だが、うちの奴らも何人が体に力が入らないらしい」

「……過去の高難易度ダンジョン試練モドキであった、祝福と加護の封印でしょうか」

「それなら召喚者に影響が出てるのはおかしくないか? それに、こっちもヴィントシューネとかニーアマルカは普通に動いてるぞ」


 屋上に出ると、すぐエルルが戻ってきてくれた。そのまま話を聞くと、そういう事になってるらしい。あー、なるほど。そうしてるところにももちろんモンスターは襲い掛かってくるし、それで余計に大混乱なんだな。

 しかし、確かに祝福と加護の封印なら住民である竜族部隊の人が大して影響を受けてないっていうのはおかしいな。何人か体に力が入らないって事は影響を全く受けてない訳では無いんだろうけど、大神の加護を分け与えたテイム状態にあるとはいえ、住民だったら動けなくなる筈だ。

 同じく、召喚者プレイヤーが動けなくなるっていうのもおかしい。大神の加護があるから、動くだけならいつも通りの筈だ。こっちも全員ではないようだが、だからこそどういう条件でターゲットされてるのかが分からない。


「情報が足りませんね。私はここで領域スキルの出力と共に供給の上限を上げます。エルルはまず乱戦状態になってるところへ応援に行って、立て直しをお願いします」

「……何か怪我した気配がするが、これ以上無理するなよ?」

「半分は切らないように調節します」


 おかしいな。しっかりお掃除魔法をかけて、血の痕跡どころかにおいも残ってない筈なんだが。何故ばれた。

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