第2218話 69枚目:再加速準備

 夜に時間を残す為に、午前中のログインはそこそこで切り上げる。私がログアウトしてる寝ている方がうちの子も休みやすいだろうしね。島に戻ったらまず全員がブラッシングをねだってきたけど。

 もうすでに地獄なのは分かっていたので、動画とかは見ていない。その代わり、ずーっと個人用倉庫に眠らせていた、鍍金の竜の素材を使ったポーションを作っておいた。

 もちろんそのままだと原液って言っていい程効果が高いから、ほどほどに薄めてだ。薄める分だけ数が作れたから、共有倉庫に入れておいた。


「……まぁ、焼け石に水かも知れないけど」


 とりあえず次は、上限付きで供給能力も開放しておいた方が良さそうだ。ただその分はずっと回復しないだろうから、もうちょっと制限をかけて、私が最大値の8割、受け手が最大値の1割までにしておこう。

 回復を助けるというより、少しでも全く動けない人数を減らす方向だ。ふんばりスキルが発動したとして、激しい戦闘だと連続で攻撃を食らって結局その場で落ちるって事もあるだろうし。

 とはいえ、無いよりマシ……だといいな、ぐらいの効果に留まるんだろうなぁ、なんて思いつつお昼ご飯を食べて、いつもよりちょっとのんびりしてから、司令部の予定通りに午後のログイン。


「実行計画に変更なし。参加人数は前回と比べて減少傾向。共有倉庫のポーションは全部持ち出し……最後のは「第四候補」ですね。まぁそのつもりで入れた物ですからいいんですけど」


 たぶん現場で配ってるんだろうし、エルルが自主的に休む程度には地獄だったんだから、それでも足りないだろう。私も一応クランメンバー専用掲示板に、上限はつけた上で【調律領域】の供給能力を開放しておく事を書き込んでおいた。

 どうやらうちの子達は既に現場入りしていたようで、念の為状態を見てもらっていた儀式服をヘルマちゃんから受け取り、神殿から「彩られゆく空白の旗」を借りて持ち出し、ルイシャンに乗せてもらって移動だ。


「…………」


 で、最前線に辿り着いてみたら。



 深い堀と、堀の側に傾斜がついた高い壁。その壁の隙間から顔を出す、過剰威力とされた筈の防衛兵器。それらの壁をギザギザの形……こう、/Wって感じだろうか……で繋ぐように、折り返しの部分へ点々と存在する要塞。

 壁も1枚2枚ではなく、掘とセットで、見える範囲で5枚だろうか。それもわざと横方向にずらして隙間を空けてある。もし迂闊にどこかの壁を迂回しようものなら袋叩きにされるだろう。

 柱のように存在する要塞が攻略し辛いのは当然として、たぶんあの壁と、恐らく堀の内側にも罠がびっしり仕掛けてあるんだろう。なんなら壁を破られたら、その破られた壁が自爆するぐらいの仕掛けがあってもおかしくない。こう、魔力的に、そんな感じがする。



 もちろんその周囲も罠だらけで足の踏み場もないし、何本も細い柱が立っているのは何だろうと思ったら、たぶんあれ、霞網みたいなものが設置されている。空を飛ぶモンスターへの対策だろうか。

 ……たぶんどっちもだな。あの細い柱が倒されたら、それに引っ張られて落ちてきた霞網がモンスターを絡め捕るんだろう。下手に暴れれば細切れになるぐらいの丈夫さはあるだろうし。

 もっとも、その霞網に召喚者プレイヤーが絡め捕られる危険もあるんだろうが、それぐらいは想定内だろうな。……どっちかっていうと、覚悟済みの方が近いような気がしないでもない。


「おっちぃ姫だ」

「ちぃ姫今回もよろしくー」

「リベンジなんだわ」

「あぁなるほど。まぁ私がボックス様関連で手を抜く訳が無いんですけど」

「「「だよな」」」


 なんて思いつつ、お散歩速度で儀式場……なんか頭1つ高く大きさも相応になっている、儀式場がある砦、っつかむしろこれはもう城では? に向かっていると、途中で作業の手は止めないままの召喚者プレイヤー数名に声をかけられた。

 もちろん素直に返すがそんな調子だったので……うん。やっぱりこれは、覚悟済みの方だな。

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