第2215話 69枚目:加速方法

 で、土曜日の午前中。


「……なるほど」


 さて決戦だ、と気合を入れつつもいつも通りにまずクランメンバー専用掲示板を見たところ、ログインしたら可能な範囲で関係者を集めて中央の島にある大会議室へ来てほしい、という書き込みがあった。

 今日のログインは司令部の計画通りなので、若干首を傾げつつもうちの子に声をかけ、集まれる範囲で集まって移動。同じタイミングでログインしていたらしい「第四候補」と「第一候補」がいるのも確認して、大体の定位置になっている席に座った。

 そこでいつもの簡潔かつ分かりやすい説明によれば、だ。



 あの黒く濁った水のようなものは、神の力を確定反射する。

 目には見えないダンジョンには、外から干渉できない。

 だが――水晶玉が飛んでいる間・・・・・・・・・・は、神の力で干渉できる。



 とはいえあの速度で飛んでいくものに灯りの奇跡を近づけるのは無理がある。だが神の力で干渉できるのであれば、少なくとも、もっと手早く分かりやすく攻略できる方法がある。

 当たり前のことだがギミックを解除するには時間がかかる。その分だけ戦闘力的な難易度が低いのだから、仕方ない。かといって、通常のダンジョンもまぁまぁ時間がかかる。探索要素があるし、不意打ちの警戒をしながら移動しなきゃいけないし、罠の解除を始めとしたギミック要素がゼロになる訳じゃないからだ。

 では。もっと手早く分かりやすく攻略できる方法、その条件とは? それはまぁ、時間がかかる方法の逆だ。すなわち、戦闘力的な難易度を上げて、ギミック的な要素をゼロにすればいい。ついでに言えば、空間的な広さの制約もなくなればなお良しだろう。


「ゴリ押しますねぇ……」

「ぶはははは!! まぁ分かりやすいっちゃ分かりやすいけども!!」

「司令部はどうやらどこかで一線を越えたままのようであるなー」


 つまり。

 ボックス様の「敵を与える」奇跡の範囲内に、水晶玉を飛ばさせればいい。


「確かにボックス様は最高ですから、奇跡の効果範囲というのは立体もしくは円柱状であり、すなわち空中も範囲内です。なおかつ飛んでいる状態の水晶玉はある種相手のリソースの塊ですから、奇跡の出力さえしっかり高ければ、範囲に入ってそこから抜けるまでにモンスターへ変換しきれるでしょうけども」

「その出力にしても、既に儀式場が構築済みのようであるからなぁ。祈りの実行者が我と「第三候補」であり、なおかつ儀式場が相互に干渉し儀式そのものを増幅する状態であるなら、ある程度壁のような形で奇跡を展開できるであろう」

「まぁその分出てくるモンスターの数と強さはお察しなんだけどなー。どうせ俺はそっちの迎撃で指揮官役だろ? 「第一候補」と「第三候補」が協力して儀式するって時点で絶対ヤベーのに、効果が続いてる間に出来るだけ削るんならほぼ無限供給じゃん。相手の」


 まぁそういう事だ。私は歌って踊れるからいいんだが、過酷ですまないと思うぞ? 下手すればレイドボス産の成長する武器を放り込んだ時並みの地獄になるんじゃないか?


「……お嬢」

「どうしました、エルル」

「周辺被害はどれくらいまでだ?」

「カバーさん?」


 そしてこちらも指揮官と特級戦力を兼任するエルルが、若干顔を引きつらせながら確認している。私は概要を聞いただけの上に、奇跡を願う側であり歌って踊りながら守られるだけなので、その辺はカバーさんの方が詳しい。


「周辺被害は一切考えなくて良いものとします。もちろん、現在攻略中の地域において、その中心に向かってなら、ですが」

「……マジか」

「司令部も本気ですねぇ」

「まぁ時間がないのは確かであるからなー」

「なぁ「第三候補」、ポーションちょっと融通できね? いやいつもいくらあっても足りないけどさ」

「クラン倉庫の分は全部持ち出してもいいと思いますよ」


 で、返って来たのがこれだ。周辺被害(エリア中央方向)は一切考えなくていい、かぁ……つまり、それぐらいには火力を叩き込まなきゃどうにもならない想定だって事だよなぁ……。

 まぁ、私と「第一候補」が、きっちり用意された儀式場で、ボックス様相手に、連携して「敵を与える」奇跡を願うんなら、それぐらいにはなるだろうけど。

 しかし大丈夫なんだろうか。主に本体と戦う力が残るかどうかって点で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る