第2213話 69枚目:対抗策

 小休憩という名の(推定)作戦タイム、30分。


「……いつの間にこんなものを……」


 と、実に素直な感想を、呆れと引き気味を混ぜた呟きとして零したのはエルルである。まぁ、私もちょっと思ったけど。

 目の前にあるのは、小さな鍵だ。たぶん私の手でも、握り込む事で隠せるだろう。水晶を削りだしたのか全体が透明で、頭は平たく丸いコイン状になっている。

 ただ、その反対側。歯と呼ばれる部分がなかった。ただの棒だ。そして頭の部分には、びっしりと、透明な水晶が真っ白に見える程びっしりと、複雑な形の溝が彫りこまれている。


「ちなみにこれ、生産数は……」

「生産者も生産数も生産方法も機密情報ですが、材料や破損した欠片まできっちり管理されています、とだけ」


 それを見せに来た司令部の人は大変良い笑顔だったので、私とエルルの反応はお気に召したようだ。まぁ、うん。正直、マジかよ。と、皇女ロール中では出しちゃいけない心の声が顔に出たからな。

 私が聞いて、先手を打つように必要な情報が出てきたこれは、司令部が、というか、司令部の中でも極一部、元『本の虫』組でも厳重に取り扱うべきとされた代物だ。何せ、いくらでも悪用の方法がある。

 一方で真っ当な使い方はというと、関連スキルを上げる事でも代替可能と来たのだから……恐らく、好奇心だろうな。どこまで作れるか。どこまで「本物」に出来るのか。そういう方向の。



 何故ならこれは。

 魔法的な意味で本物の――「スケルトンキー」だからだ。



 どんな錠でも開けてしまう、万能の合鍵。もちろん現実はそんな事ない訳だし、現在スケルトンキーで開けられる錠は相当限られる。それでも使われている時、及び、「万能の合鍵」という概念はそのままだ。

 だから、フリアド世界で追及したのだろう。「万能の合鍵」の概念。これを使うだけで、どんなに難解な錠前であっても開く事が出来る。そんな、ある意味で「最強」の道具を。

 そして結果が出た。出てしまった。もちろん、これが完成するまでにどれほどの試行錯誤があったのかは分からないし、ざっとあらましを聞いただけでも分かる、大きな欠点があるという点ではまだ未完成なんだろうが……。


「――ハンドメイドの魔法の道具。神の力にも迫る万能性と汎用性。もはやそれは、人造神器って言うんですよ」

「最高の誉め言葉ですね」


 比較対象に、私の持つ旗槍が出てくる。と言えば、この小さな鍵のヤバさが分かるだろうか。本当に、いつの間に。もちろん、作ったのは悪用を考える人ではないだろうし、その存在もここまでは徹底的に隠されてきたようだが。

 では、何故今このタイミングで、これが出てきたかというと。


「十分な魔力を供給し続ける・・・・・・事で、理論上、周辺にある全てのギミックを一瞬で解除する。……まぁ、「最上位の魔法の鍵」なら、それぐらいはやらかす可能性はありますけども……」


 そう。この鍵を私が持ち、【調律領域】によって魔力の供給対象に選ぶことで、増殖するダンジョンを一気に攻略しよう、という訳だ。

 もちろん元となるダンジョンではない。そっちでやらかしたら周辺に湧くダンジョンの数が酷い事になる。ただ、私とエルルが揃って突入すれば、普通の野良ダンジョンは秒殺だ。

 その上でこの鍵があり、ギミックも秒殺できるのなら、攻略数は跳ね上がるだろう。そして報酬は実質私が独り占め。大変と美味しい話なのだが。


「で、実際どれくらい魔力が必要なんだ?」

「我々人間種族では、魔法を主として使うメンバーでも空間に対する同時解除は10個ほどがやっとでした」

「……。確か仕掛けの方だと、数千は解かないといけなかったよな?」

「トップ召喚者プレイヤーのステータスからすると、結構な量ですが……まぁ、行けなくはないでしょうか。儀式による極大魔法よりはマシでしょう」

「それは普通比較対象がおかしいって言うんだぞお嬢」


 問題1。その必要魔力が未知数だって事だ。どうやら既に試してはみたが必要魔力が桁外れに多く、魔力が足りないと耐久度を消費して、なおかつ鍵自体の耐久度はかなり低いらしい。

 ただこれに関しては、私だからな。たぶん「第四候補」でも大丈夫だと思うが、確実性を取るなら私だろう。というか、私で魔力が足りなかったら実質運用不可能だ。

 問題2。私がダンジョンに挑むという事は、当然ながらその間は通常空間にいないって事だ。つまり、領域スキルの効果が途切れる。そっちはいいのか? と思ったんだが。


「実はこういうものも出来上がっていまして」

「水晶……いや、共鳴結晶か?」

「はい。水晶と共鳴石その他を適量用いた共鳴結晶です」

「……。もしかして、鍵もこれで?」

「はい。そしてこちらとこの鍵がセットになっています」


 続いて取り出されたのは、小さな鍵が丁度入るぐらいの大きさの、同じく透明な足つきグラスだった。こちらも縁の部分が白くなる程、びっしりと彫りこみが施されている。

 水晶と共鳴石、その他はまぁ機密情報なんだろう。その2つは共鳴結晶の基本材料だから、ほぼ答えていないに等しいし。

 で。共鳴結晶を使って作られたスケルトンキーと、それとセットのグラス。そして今出されたって事は。


「あー……なるほど。それも含めて機密なんですね」

「そういう事です。という事で、鍵はエルルさんに。グラスはちぃ姫さんに持っていただければ」

「……。そういう事か」


 エルルも、鍵が自分でグラスが私、ってところで気付いたようだ。

 そう。このグラス……鍵に魔力を補給する為のものだ。恐らく、どれだけ離れていても。たぶんだが、最初はこう、外付けの魔力タンクにするつもりだったんだろう。それがどこかで、もういっそそのまま魔力を流し込むようにすればいいのでは? と、気付いたか閃いたんじゃないだろうか。

 やっぱりこれ、人造神器だな?

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