第2211話 69枚目:攻略状況

 増殖するダンジョンは人手があればなんとかなる。そして通常の野良ダンジョンと同様のクリア報酬が出るって事で、前回の稼ぎモンスター辺りから参戦しだした召喚者プレイヤーや、成長する装備の超強化に来てそのまま試運転に丁度いいと参加している召喚者プレイヤーもいるから、いつもより人数が多いようだ。

 流石に「導きのタブレット」及び「指針のタブレット」を持っていない召喚者プレイヤーは(最前線まで来れる中には)いないようなので、戦闘のつもりでギミックの方に当たっても、一応何とかなっているらしい。

 まぁ私が領域スキルを展開しているから、その難易度自体も下がってるみたいだしな。結果として、非常に順調に攻略出来ているようだ。


「本当か?」

「状況と報告的には順調ですよ」

「……減った気がしないんだが?」

「まぁ攻略される端から追加されたり増殖したりしてますからね」


 外から見る分にはそんな感じなのだが、今の主目的はあの、黒く濁った水で出来た輪もしくは円盤の体積を減らす事だからな。元となるダンジョンの数が増えてるって事は、相応に体積が減っている筈だ。

 そちらも中継映像を見ているし、実際凹みがどんどん大きな穴に変わっていっているのは分かるんだが……うん。これはやっぱり、輪ではなくて円盤だったかもしれない。

 何せ、いつまで経っても向こうが見えないのだ。穴が深くなっていき、その直径も広がっているからどんどん光が入って、奥が見えるようになってきてはいるんだが。


「というか、穴の直径が上下に届いて、輪ならもうだいぶ千切れかかってる筈なんですよね」

「……。あぁ、大神の加護での映像か」


 何見てんだ? という感じでエルルが私の手元を覗き込んできたので、司令部(観測班)による中継動画を見せる。これで見る限りは既に穴というより、齧り跡みたいな形になってるんだよな。

 それでもまだ向こうが見えない。その齧り跡の中心は、上下よりもずっと深さがある状態になってる筈なんだが。そして下は地面が見えているし、上は壁としての高さの上まで届いている。

 上まで届いているという事は、あれが輪の形をしているなら、横と比べてだんだん高さが低くなっていく筈なんだが……定点観測みたいな映像で見る限り、同じ高さが続いてるように見えるんだよなぁ。


「残りの面積が全てあれで埋まっているとすると、それを削り切るのは大変ですね……」

「……。他の場所から集めて、この特に削れてる場所を厚くしてるって可能性はないのか?」

「それもなくはないと思いますが、それなら他の場所が薄くなっている、つまりどこかで突破報告があってもいい筈です。少なくとも、反対側はここと同じように一気に削りにかかってる筈ですから」

「なら、そこから直角になる位置も既にやってるのか。……まぁ、それ以上は手数の問題で無理があるか」


 やってるんだよな。だからこその輪ではなく円盤という発想になったんだし。

 もちろん、他の場所から体積を集めて、激しく攻撃されている部分の防御を厚くしている、という可能性も十分にある。だから司令部は、ちょっとダンジョンの攻略が間に合ってないような気がするペースで削っているのだろう。

 だから問題は、本当に円盤だった場合だ。何せ今回の相手はギミックタイプ。ひたすら時間がかかるやつだからなー。


「あの輪もしくは円盤を削る為に、一番手っ取り早いのは記録媒体を放り込んで知識を引き出す事ですが……その場合、うっかり周辺被害が大変な事になるのろいを引いてしまうかもしれませんからね……」

「それは武器を入れて、試練に失敗した時もそうじゃないのか?」

「こっちはただの代償らしく、挽回用の試練が出ないんですよ」

「……なるほど。普通に解呪するしか無いんだな」


 だからこそ、一見すると一番時間がかかる、増殖するダンジョンを出現させる、って方法をとってる訳で。

 何せ、攻略方法としてはこれが一番単純で、とにかく最低限の戦闘力と人手があればいいだけだからな。手数が集まれば加速がかけられるし、しばらく放置していても大丈夫だし。

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