第2210話 69枚目:変化攻略

 そこから間もなく、私が待機している方向で水晶玉の投入が始まったのか、召喚者プレイヤーが大挙して黒く濁った水で出来た輪のようなものの方向へ移動していった。攻略すると数が増えるダンジョンなんだから、攻略するには手数が必要だからな。

 とはいえ、私はルイシャンにこそ乗っていないが、ルイシャン自身は近くにいる。ここまで来るのに移動したからな。そして当然ながらエルルも待機したままだ。そもそも、私自身が装備の強化とセット効果で、特に防御面が強化されている。

 なので、少々放置されても問題ない。暇なだけで。置物役だから仕方ないとはいえ。


「お嬢」

「どうしました?」

「穴をあけるというか、ここで大きく体積を減らすのは分かったが、流石にちょっと多くないか」


 まぁ掲示板を眺める事は出来るから、それこそ水攻め式広域探索をしていた時よりかはマシなんだが。なんて思っていると、周囲の様子を見ていたエルルからそんな疑問が上がった。

 流石に多い、とは? と思いながら私も周囲を見るが、理由はすぐに分かった。水晶玉を投げ込んで発生する、攻略すると数が増えるダンジョンだろう。ダンジョンそのものは見えないんだが、召喚者プレイヤーの集まり方を見れば分かる。

 ……確かに、見ている間にバゴンドゴンと派手な音を伴って数が増えて行っているな。召喚者プレイヤーの消え方が早い。


「まぁ、無害とは言いませんが、周囲への影響は小さい方ですからね。他のギミックに比べると」

「……それはそうかもしれないが」

「残り時間の事を考えると、周辺に未攻略で近寄ったら吸い込まれるダンジョンが増えるリスクを取ってでも、あの輪の向こうを確認しておくべき。という判断になったんでしょう」


 繰り返すが、現在は木曜日の夜だ。リアル次の月曜日の昼12時まででイベント期間は終了なので、かなり追い詰められている。その昼12時まで、というのも、緊急メンテナンスが入って36時間そのまま延長されたからこそなんだから、本来なら既になりふり構っていられない。

 エリアの残りは中心から半径4分の1。まだ4分の1も残っている、というべきだろう。何せ今相手をしている復活レイドボスのオリジナルは「囲い抱える飽溶の水母」。ギミックを攻略しつつ無数の核を片っ端から撃破しなければならない、かなり厄介な相手だったのだから。

 そして恐らく、復活レイドボスとして再登場した際の、難易度の上昇率。これは「再生能力/吸収能力の高さ」に依存する。何故なら、そういう能力と相性がいいのが“呑”む由来の追加能力だから。


「“採録にして承継”の神の領域を、空間的に丸ごと取り込もうとした相手が元になっているんです。あの再生力としぶとさ、邪神の信徒抜きでも十分に厄介だったでしょう?」

「…………まぁ、それは、そうだが……」

「それが、まだあれほどの面積と体積を残しているんですよ。確定の反射がなければ、今頃「敵を許さない」特性付きの炎が投げ込まれています」

「……。大人しいと思ったら、反射されるから使わないだけだったのか」

「それはそうでしょう。確実に敵を滅せられる手段ですよ? 使わない訳がありません」

「止めろ」


 ましてや、空間的な能力に秀でている相手なんだ。見た目通りの体積で終わる訳が無いだろう。しかも、一応はこちらにも利があるとはいえ、異界の大神が抱え込んでいた穢れの一部がリソースとして取り込まれているんだぞ?

 空間の歪み(という名の便利エネルギー)だけでも厄介なのに、更に別のリソース源があって空間をいじれる能力があるんだぞ? 最後の最後まで油断できない、絶対に厄介なやつに決まってるだろう。

 というか、前回も相当に厄介だっただろうが。最後の1割が、そこまでと同じだけのダメージを与えないといけなかったんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る