第2148話 68枚目:中央到達

 思った通りというか、午後のログインは細切れだったし、攻略も比較的のんびりだった。まぁのんびりといっても、まだ十分明るい内にエリア中央に辿り着けていたんだけど。

 流石にそこでは復活レイドボス「膿み殖える模造の禍命」の本体と接敵するかも知れない、って事で、ベテラン勢もそれなりに待機していたんだが……流石中央というべきか、今の召喚者プレイヤーの人数でも、ほぼ全く穴が塞がらなかったんだ。

 もちろん残ったエリアが狭くなっているから、一ヵ所に集まる事が出来る人数も制限される。今までは戦力を集中させられるって良い部分しか無かったのが、ここにきて、召喚者プレイヤーが収まり切らないって悪い部分が出てきてしまった。


「となるとまぁ、引き揚げますよね」

「本当に現金だな」


 冒険するにもお金がかかるからね。質の良い消耗品は大体常に品薄な上に良いお値段するから。装備品はそれ以上だし。そもそも希少な素材っていうのは自分で探して手に入れるのが前提になってるから。つまり高い。

 まぁでもさっさと離れる決断をした人もいるにはいるが、まだ大人しく順番待ちをしながら黒い手の群れに攻撃してる人もいるし、動きが良くて各クランにおけるトップ召喚者プレイヤーに勧誘されてる人もいる。いつもより人数は多いんだよな。

 そんな感じで、リアル夕方になる頃にはエリア中央に残った穴も、だいぶ底が見えてきていた。やはりここは何か違うらしく深さが10mより浅くなっても黒い手はなくならなかったが、別に何も問題は無い。


「で、もう一度崩落する分には想定内な訳ですが」


 そして夜のログイン。

 穴の周囲にべったりと張り付いていた「実体化した負の感情」はすっかり綺麗になって、あとは中央部分を残すだけ、という状態になっていたのは予定通り。そこから集まった召喚者プレイヤーで攻撃が無数に叩き込まれ、中央部分に残っていた穴が元に戻るのも予定通り。

 中央部分の底にあった大量の「実体化した負の感情」が溢れ出てくるのも対処したし、その直後に街の廃墟を模したエリアの半分ぐらいが再び崩落して穴になったのも想定内だ。が。


「噴水か油田のように「実体化した負の感情」が噴き出してくるとは思ってませんし、何よりその中に精霊の集まった結晶の欠片のようなものが混ざっているのはどういうことですか!」


 しかもどす黒く濁っているので明らかに状態は悪い。というか、触れるとごっそり魔力を吸われる上にちょっとシャレにならないダメージが入る。私が持ってもそこは変わらないので、正気を失っていると見るべきだろう。

 とはいえ、そのダメージと魔力の吸収は結晶の欠片を召喚者プレイヤー同士でパスしあえばそれぞれは軽減できるし、1パーティの中でパスしあいながら後方の、工事が終わったところまで運べば周りの精霊さんによって浄化されたらしい。

 後は、私の領域スキルの中でも後方に場所を作って置いとけば、時間経過で浄化が進むようだ。もちろん他の精霊さんも寄ってくるので、こちらの方がお手軽だろうか。距離的及び移動時間的な意味で。


「まぁ欠片とはいえ相当な数の精霊が塊になっているようですから、それなりに救助が進んでいるのは辛うじて良い情報と言えるでしょうけど……」


 なおうっかり「実体化した負の感情」に触れた場合、触れた部分から装備ごと身体が真っ黒に染まっていく。ここからの救助方法は、黒くなった部分を物理的に切り離すしかない。魔法ならちゃんと防げるようだが、最初の方に盾で受けちゃった人が結構いたみたいだな。

 手足を斬り飛ばした程度ならちゃんとした治療を受ければ治るし、なんなら召喚者プレイヤーの場合死に戻れば全快する。どっちかというと、装備が耐久度をごっそり削られる、もしくは一発で大破って言う方が厳しいだろう。

 まぁでも、ここまでの散々な装備狙いに比べれば難易度は低い。「実体化した負の感情」自体も粘性が高い液体という感じの挙動をするので、黒い手の群れによって押し付けられる分さえ回避すれば何とか対応は可能だ。


「で、カバーさん」

「何でしょう」

「まだ本体の体力は分からないんですか?」

「恐らく現在噴出している根元にいる、と推測されていますが、とりあえずもう少しこの「実体化した負の感情」の体積を減らさないと無理かと思われます」


 ……問題は、未だに本体の目視が出来てないって事なんだけどな。

 こうなってくると、最初に名前が分かったのはどうやって本体を確認したのかが分からなくなってくる。スキルを通した人は死に戻ったらしいから、本当に一瞬のチャンスだったんだろうか。

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