第2147話 68枚目:攻略速度

 まぁでも流石に移動時間があるし、ログインのペースっていうのもある。もちろん深夜、日付変更線を過ぎた直後から再びログインする人もいるだろうが、1日の最大ログイン時間がリアル9時間、というのは変わらない。

 だから私が撤退を決めた時点でもまだまだ人は集まっていたが、もちろんそこから抜けていく人もそれなりにいる。それが上手く入れ替わりになるように色々調節をする司令部の人達はすごいんだよな。

 ……んだが、まぁ、何というか。運営のやらかしは初めてではないというか。既に、少なくとも第三陣以前であれば身に染みているというか……。


「あれ? 思ったよりも進んでませんね?」

「昨日は召喚者の数が一気に減ったぞ」


 うん。まぁ。あれだ。「遍く染める異界の僭王」の、ボーナスタイム。というか、ボックスガチャ。あの悲劇が語り継がれてたみたいで……0時直後、召喚者プレイヤーの稼働率が落ちる間のログイン率が、劇的に下がっていたらしい。ログイン時間の温存だな。

 とはいえ、まだ本体の名前こそ分かっても、その体力バーは確認できていない。つまりはまだまだ序盤だろうって事で、落ち着いて行動出来たって言うのもあるかも知れないんだが。

 だがまぁ司令部からしても、ログイン時間の調節や戦力の割り振りが楽なんだろう。それに司令部の人達も(中身は)人間だ。人間なら夜は寝たい。当たり前の話だな。夜もログインして状況の確認を続けてくれている人、ありがとう。


「で、やることは変わらないのか?」

「変わりませんが、今回は情報が出回ってますからね。もうちょっとスムーズに行くと思います」

「……。まぁ一昨日も、時間が経てば経つほど早くなっていってたからな……」


 なお私も相変わらず領域スキルを展開して土地の力場的除染をする役目だ。何か一部、黒い手の群れがいる方向を前とした時の後方で机を取り出して風よけを設置して、トランプのスピードを始めた集団がいるけど、まぁいいだろう。ただし賭けをするならちゃんと司令部の人を通すようにな。

 そういう訳で日曜日の午前中ログインでの進捗は、滅茶苦茶進んだ。本当に。今まで苦労してたのは何だったんだ? という言葉がちょっと頭をよぎるぐらいに。こんなに早く攻略できるものだったのか。

 流石に崩壊した街の跡を模していたエリアに踏み込むと、その底が出てくるまでに必要な黒い手の撃破数も、出てきた底に張り付いている「実体化した負の感情」の量も跳ね上がったようだが、本気の本気で人数がいる現状、何も問題にならない訳でさ。


「まさか、エリア中央が私からでも見えるぐらいの距離まで近づいたところで昼休憩に入れるなんて思ってない訳で」


 すごいな、とても分かりやすい報酬。もとい召喚者プレイヤーのやる気。今までのは本気どころか全力にも届いていなかった……?

 いや、ここまでも本気の人は本気だった。それは間違いない。本気は本気だった。まだ上があって、それが思ったよりも高かっただけで。

 うん。上手く行きそうなんだ。それは間違いない。分かりやすい報酬のお陰でイベントの参加人数が一気に増えて、攻略にひたすら手数がいるタイプのレイドボスだった。つまり相性。


「……もしくはいい加減正しい方向に学習した、運営による燃料投下」


 まぁとりあえずいい事だ。少なくとも、今日中に倒せる目が割と十分出てきたんだから。夜に本番を持ってくるなら午後はまぁまぁ緩めの攻略になるだろうけど、まだ相手の体力バーすら見えてないし。

 何なら地上の崩落を囮に、その更に地下でもう一回周囲へ広がっているかも知れないんだし。つまりエリア中央に辿り着いたらもう一回だ。そういうのもあり得るんだし。

 流石に、仮にもレイドボスで、体力バーの確認すら出来ないまま仕留められるなんて事にはならないだろうし。たぶん。恐らく。……うん。よし。油断せずに行こう。

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