第2146話 68枚目:戦場の変化

「一体どれほどの人数が離脱していたのかが良く分かりますね」


 土曜日の夜、という召喚者プレイヤーの稼働率が高い時間帯ではあったが、それでも人の集まり方はちょっと驚くほどだった。何しろ中央から半分円形にごっそり崩落したその周囲を、ぐるっと囲んでなお列が出来るぐらいの人数だからな。

 いくらエリアが限られているとはいえ、大陸の一部だぞ? ちょっとした国ぐらい……は言い過ぎかもしれないが、それでも普通の街なんかとは比べ物にならない程に広い。それが、分厚く囲めるとか、どこにこんな人数がいたんだってぐらいだろう。

 ちなみに彼らのお目当ては当然素材が美味しいレアモンスター。まぁ当たり前だな。ボックス様の試練でも出て来るけど、捧げものが必要だし。それを作るのにも時間と素材と手間がかかるし。


「そうだった。召喚者ってかなり現金な奴らだったな」

「否定はできませんがもうちょっと丸く言ってくれると嬉しいですね」


 もちろんただ待っているだけというのもあれだし、と、黒い手の群れに攻撃している召喚者プレイヤーも多い。といっても、遠距離攻撃を連打するだけでどれかには当たるし撃破できるんだから、文字通り暇潰しだろう。

 ま、暇潰しだろうがなんだろうが、黒い手の群れが減っているのは確かなんだけどな。そして黒い手の群れが減れば、「実体化した負の感情」が供給されるので、モンスターの出現速度が上がるらしい。

 本来なら厄介なギミックだったんだろうが、現在それは美味しいモンスターのお代わりが早くなるという事にしかならない。順番待ちしてる人が多いから、黒い手の群れに攻撃すれば自分の番が早く回ってくる、と理解してくれてからは更に攻撃が増えている。


「というか、これなら俺らは何もしなくていいんじゃないか?」

「このペースが最後まで続けば、の話ですけどね」


 これ、割と本気で素材についての文句が運営に殺到した結果、あの種が出てきたしこういうギミックになった可能性があるな。もしくはイベントに参加している召喚者プレイヤーの人数があまりに少なくなってきたから、流石にまずいんじゃないかと誰かが気が付いたか。

 まぁともかく、召喚者プレイヤーの稼働率が本当の意味で跳ね上がった結果、既に大分大穴は埋まってきている。たぶんもうすぐ、地下部分が5階の穴が発見されたぐらいの距離なんじゃないか?

 あまり大穴に近づくと黒い手に捕まってしまうが、それは司令部の方で看板を立ててロープを張り、これ以上は近づかないようにとしつこくアナウンスされているし。そのロープも適宜更新されているし、次の部分が持ち上がって「実体化した負の感情」が流れてくる場所への魔法陣作成も順調だ。


「さてエルル、移動の時間です」

「さっきから少しずつ前には進んでるぞ?」

「いえ。召喚者プレイヤーが大勢集まったからか、領域スキルによる力場的除染が驚くほどの勢いで進んだようでして」

「…………。そうか。大神の加護か」

「確定した訳では無いですけど、恐らくはそうですね」


 やっぱり環境が過酷だったから余計に難易度が上がってた感じだな、これ。ここに来ている人たちも大半はちゃんと「導きのタブレット」を持っているし、つまりアプリ型の便利機能は手に入れているし、しっかり大神の加護を強化してるって事だ。

 それだけの加護保持者がいれば、影響も大きくなるだろうって事なんだろうが……うん。やっぱり運営はちょっと反省してくれ。難易度調節もそうだが、流石に産廃素材しか落とさないっていうのはキッツイぞ。

 というか前回の「凍て食らう無尽の禍像」に至ってはドロップ品すら無かったからな……その癖対策をちゃんとしないと即死するとか。

 ……冷静に考えたらクソゲーと言われても仕方ない状態だったな。だから司令部の方針も、簡単に全部まとめて燃やす方向に行ったんだろうし。

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