第2145話 68枚目:モチベーション

 案の定サーニャはすぐ戻って来て、杖を受け取ってそのまま黒い手の群れの上を(空気の足場で)走り回りながら魔法の矢を降らせまくっていた。誤算といいつつ半分予想通りなんだが、その姿を見て竜族部隊の人達からも杖が欲しいって声が上がったので、そっちにも配る。

 うちの子以外からの要望は「第四候補」に頼むようにと返したが、色々な属性の矢がこれでもかと降り続けるようになるまでそうかからなかった。ある意味壮観だな。

 そしてそれだけの数の魔法の矢が降り注ぐという事は、当然ながら魔法の矢の数だけ手数が増えるって事で、だな。


「やはり穴もリソースだった上に、埋めていくのが前提でしたか」


 穴が埋まっていくと、底になっていた部分が見えるようになる。それは良いんだが、その底になっていた部分っていうのに、べったりと黒い物が張り付いていたのだ。

 もちろん黒い手の群れは、そのべったりとした黒い物から伸びている。だが何か制限があるのか、深さが10mより浅くなると黒い手は出てこなくなる。まぁそれでも魔法や物を投げ入れると、その周囲に黒い手が出現するから、そこから削れないって訳では無いんだが。

 ただまぁ、オリジナルがあれで、黒いべったりとしたものだ。当然、ベテラン勢を中心に注意勧告が行われて、召喚者プレイヤー全体がその場から離れている。そしてその、しっかりと周囲を開けた状態で、穴の底だった部分が地面と同じ高さになり。


「べったりとしたものが周りの黒い手で魔法陣の形になるのは驚きましたが、そこからモンスターが出現するのは分かり切ってるんですよね」


 つまり「実体化した負の感情」だ。魔法陣については入れ知恵の気配がするが、元々からして持っていてもおかしくない知識ではある。つまり運営から付け足されててもおかしくない。

 まぁでも、出現するのは普通のモンスターだからな。そこはまだ何とかというか、許せるというか。つまり、素材が手に入るって事だし。

 そしてモンスターを召喚するなら、その種類をこちらで指定できないかって事で、今司令部主導で欲しいモンスター(主に素材的な意味で)を出現させる魔法陣を、穴の縁に溝を掘る形で用意している。


「先程は黒い手が魔法陣を描いてましたが、その前は普通にドロッと周囲に広がってましたからね……」


 もともと流れていく場所があり、それが形になっているなら、そっちに流れていくんじゃないかという推測だな。もちろん、勝手に描かれないように周りの黒い手を集中砲火で消し飛ばす準備をしてるみたいだけど。

 しかしあれだな。あの種といいこの召喚方法と言い、素材が手に入るようになったな。この大陸に来てからこっち、素材関係はずっと全滅してたから、逆にちょっと驚きだ。

 ……いや。むしろここまでずっと全滅だったから、それに対する苦情がそろそろ無視できなくなってきた、とかか? あり得るな。流石に私もちょっとうんざりしてきたとこだ。


「……まとめて吹っ飛ばしても問題ないのに吹っ飛ばせないっていうのもかなりでしたけど」


 吹っ飛ばしても問題ない。だが吹っ飛ばす事は出来ない。普通に戦うとそれだけ消耗する。なのに他の場所と違って得るものが経験値だけ。そしてその経験値も、今回は下手を打つとドレインされる。

 ……うん。まぁ。それはそうだな。最前線の人数が思ったより少ない気がしたんだが、気のせいじゃなかったのかもしれない。だがまぁそれはそうか。経験値はお金じゃ買えないとはいえ、利益は大事だよな。本当に。

 なんて考えている間に、どうやら事前に溝を掘る形で魔法陣を用意していた場所に、真っ黒でべっとりしたものもとい「実体化した負の感情」が流れ込んだらしい。そしてその場合、黒い手が干渉してくることは無いようだ。


「モンスターが召喚できればいいって事なんでしょうかね。内容はともかく」


 なおここで召喚されたのは、皆大好き(?)宝石ゴーレムだ。文字通り、全身が宝石で出来たこいつは、私もボックス様の試練でよく召喚する。

 流石にコストが重いのか、出てくるのは1体ずつだし時間もかかっている。そしてその間に、司令部は待っている召喚者プレイヤーを整理して列の形で並ぶように指導していた。

 他の場所でも、まだ魔法陣の溝すら出来ていないのに場所取りをしようとする召喚者プレイヤーが出ているようだ。……何というか、分かりやすい収入って、本当に大事だなぁ。

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