第2144話 68枚目:攻撃手段

 それでもまぁ、一撃の威力ではなく時間当たりの攻撃回数が重要となる戦いは、召喚者プレイヤーが得意とするところだ。とにかく囲んで叩けばいいから分かりやすいとも言えるが。

 見た目通りというか、あの子供サイズの黒い手そのものの耐久度はそんなにないらしい。まぁ頑丈な上に高威力攻撃を反射すると、分かりやすく攻略不可能だからな。それは妥当なところだろう。

 とはいえ、弱い分だけ数がいるタイプだからか、大きな穴が埋まっていくのは本当に少しずつなようだが。こればかりは仕方ない。一気に埋められる大規模攻撃を封じられているんだし。


「で、お嬢。これは何だ?」

「振って使うタイプの杖ですね。無属性の魔法の矢を飛ばすやつです。威力を手数に変換するならこういうのがあるぞ、と、さっき「第四候補」から連絡が来てましたから」

「……。壊れないか?」

「手数を増やす方が優先、との事です。壊してもいいように、予備はいっぱいあるようですよ」


 とはいえ、特級戦力を遊ばせている余裕が無いのも確かだ。……という事で、そういう装備が回されてきた。まぁ確かに、とりあえず攻撃すればどれかには当たる、ってぐらい相手の数がいるからな。

 しかしどういう状況でこんな装備が開発されたのか……と思ったところで何故かパストダウンさんの良い笑顔が浮かんだ。いや、あの人なら「こんなこともあろうかと」って言いたいがためにそういうものを色々開発してそうだけど。

 まぁでもそういう事なら、と、エルルがその内の何本かを持って前線へ移動。人気の少ないところから、恐らくエルル自身は出来るだけ奥を狙って杖を振ったのだろう。


「……まぁそうなりますよねぇ……」


 結果? 夥しい、としか言いようのない数の魔法の矢が降ったよ。たぶん何発かは穴の中まで届いて、穴を埋める代わりに新しい黒い手を出現させている感じだが、その新しい黒い手も諸共に撃破されている。


「これはたぶんアレクサーニャでもいいやつだな」

「工事も大事ですが、それなら前線に戻って来てもらいましょうか」


 で、戻って来たエルルの第一声がそれだ。まぁ、そうだな。むしろ単純なステータスというか、魔力出力的な意味ではサーニャの方が強いまであるから。魔力を通して振ればいいだけなら、ちゃんと奥の方を狙うように伝えれば大丈夫だろう。

 まぁサーニャが後方の、色々な工事の方に参加してるのも「戦いにならない」からだしな。道具頼りで魔法とはいえ、戦えるなら戻ってくるか。


「お嬢はダメだぞ?」

「行きませんよ。領域スキルが「威力の高い攻撃」カウントになるんですから、つまり私の種族特性もアウトでしょう」

「……。それもそうか」


 なお、それでも私が後方で大人しくしているのはそういう理由だ。カウンターと言っても攻撃ではないから味方に被害は出なかったんだが、領域スキルが押し返されて進めなかったんだよなー。

 あの黒い手の数が減るか、ある程度相手の体力が減るか、それとも後方の各種工事が進んで影響力が削がれれば進めるようになるかもしれないが、とりあえずしばらくは無理だ。少なくとも、廃墟になった街を模したエリアぐらいには入れないとダメなんじゃないだろうか。

 その辺は実際そうなってみないと分からないしな。……しかしそれにしても、名称は分かっても体力バーは見えないのか。それはそれで不穏というか、厄介な気配がするな。要はこの黒い手、本体ではないって事だろ?


「……流石にこれより地下に潜んで再びの崩落を狙って来る、という事は無い、と思いたいところですが……」

「今も十分穴としては深いと思うぞ?」


 でもないとは言えないんだよなー。何せ既に一回やられてるし、そもそも前回の「凍て食らう無尽の禍像」が掘ってた穴はこれ以上だったからなー。

 こっちだと普通に神の力が籠った溶岩であっても食べそうだし、この場所の西にはティフォン様とエキドナ様の聖地がある。割に離れているとはいえ、前回ほどの距離は無い。

 ……つまり、狙おうと思えば狙えるんだよ。地底を流れる溶岩を。

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