第2143話 68枚目:戦闘開始

 なぜあれほど頑張って撒き散らされる種を回収していたと思うんだ。


「お嬢。いいのかあれ」

「…………検証に犠牲はつきものですし、召喚者プレイヤーですし、あの集団は少なくとも見える限りでは完全に自己責任ですから……」


 何のことかって言うと、司令部からの号令で戦闘が始まった。のはいいんだが、まずやるべきは属性チェック、各種投擲アイテムや魔法による、攻撃に対する反応の確認だ。でないと回復させたりするかも知れないからな。

 なんだが……一部召喚者プレイヤーが、周りのベテラン勢が止める間もなく黒い手の群れもとい「膿み殖える模造の禍命」に突っ込んでいった。その結果? 大体分かってた通りだよ。


「しかし、あの分だと恐らく、身に着けてる装備も「取られ」たようですね。あの部分だけなのか、一式全部なのかは分かりませんけど」

「とられた。……まぁ、それはそうだろうが」


 攻撃したところから黒い手が増殖。体を一ヵ所掴まれたらそのまま逃げられず、手の群れに飲み込まれるようにして姿を消したよ。そしてその飲み込むのに参加した黒い手が、その召喚者プレイヤーが身に着けていた装備っぽいものを着けていた。

 というか、明らかに大きさが違う……まぁ正直に言えば、飲み込まれた召喚者プレイヤーのものらしい黒い手が増えていたし、その辺りの黒い手の密度が上がっていたから、相手にリソースを与えただけなんだよな。

 装備を奪う挙動も、部位を奪う挙動も、あのイベントエリアの四方の端にいたレイドボスがやっていた。そもそも、種によって召喚者プレイヤーを「栄養にする」というのも、倒した相手を利用して増えるというのも、その1つだ。


「司令部から続報が来ましたね。……属性チェックは特に特殊な挙動無し。どれであっても通じる代わり、どんな手段を使っても多少は回復される。すなわち威力が減るということらしいですね」

「……。召喚者の方はいいのか?」

「そちらもありますが、腕装備は確定でロスト、他の部位はランダム、「栄養にされた」時同様スキルレベルの減少が発生に腕に対する解除不能のデバフと、まぁ大体分かってる事ですよ?」

「大体分かってるならなんであいつらは突撃して行ったんだ……?」

「それが分からないから頭が痛いんですよね。分かりたくもないですけど」


 ともあれ、犠牲が出てしまったなら仕方ない。召喚者プレイヤーだし、既に後方で復活してるし。装備は……まぁ、頑張れ。勉強代だ。

 まぁ自業自得召喚者プレイヤーはともかく、属性チェックが終わってからは普通に攻撃が始まっている。……にもかかわらず、領域スキルを展開している私はともかく、エルルが何故後ろにいるかというと、だな。


「にしても……きっちり、一定以上の威力がある攻撃に対しては、攻撃を反射してくるとか、本当に余計な事を……」

「あれか。まさか軽く切っただけでも跳ね返されるとは思わなかったぞ」


 つまり、エルル(サーニャもだが)だと基礎攻撃力が高すぎて、実質攻撃できない状態になってるんだよな。竜族部隊の人達は強攻撃ぐらいなら問題なかったので、前線に参加している。

 使徒生まれ組はルシルがしばらくふてくされていたが、どうやら弱点+クリティカルによる即死は通るらしく、すぱすぱと首ならぬ手首を刈りまくっている。……あそこが弱点なのか。確かに手の形してるけど。


「まぁ種を撒き散らさないだけマシですかね。穴の中に何かを入れたら、手が増えるみたいですけど」

「穴は塞がってるのか?」

「集中して一ヵ所に土を入れてみたら、縁が内側に凹んだらしいですよ」

「なるほど、一応塞がりはするんだな」


 凹んだというか膨らんだというか。穴の形としては凹んだでいいんだが。中継動画が上がっていたので、私も確認している。

 だが、一定以上の威力がある攻撃が反射される、つまりダメージにならないって事は、大規模な攻撃で一気に削る事が出来ないって事だ。つまり、ちまちました戦いにならざるを得ない。

 当然ながら、ティフォン様の炎も反射対象だろう。つまりここでも最終手段は使えないって事だな。……そんなに警戒しなくても、真っ当にクリアできるなら使わないっつの。そこを警戒するんだから、真っ当にクリアできる難易度になっていない自覚がある、って解釈していいんだな……?

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