第2142話 68枚目:出現

 召喚者プレイヤーが元気にレベル上げ、もとい大規模戦闘をやっているので、エルルは私の傍に控えていたし、サーニャも割と近いところにいたらしい。にもかかわらずこの割と大きな負傷、となれば、まぁ大体原因は分かる。


「干渉か!」

「でも姫さん、あの向こうには手出ししてないよね!?」

「してませんが、かなり深い場所だと向こうから手を出してきていたようですね」

「とりあえず傷を見せて下さい末姫様!!」


 もちろんすぐに領域スキルの展開範囲は戻しているし、自然回復力も高いから、出血自体は止まっている。しかし結構痛いな。って事は、割とダメージが入ってたのか。

 ニーアさんが文字通り飛んできたので、私は素直に左腕を伸ばす。うーん酷い事になってるな。まぁほぼ治ってるんだけど。え、骨がずれてる? まぁ思いっきり弾かれた感じの反動だったからなぁ。

 なおここまで10秒ほどな訳だが、ここで中継動画に意識を戻すと……うん。ちょっと、いやだいぶ酷い事になっていた。


「恐らくさっきので刺激されて正体を現した、ってところなんでしょうけど、これはまた……」


 どうやら中央から外側へ、同心円状な感じで、地面が崩落して行っているらしい。もちろん地面は大きな穴になっているんだが、それが俯瞰で見えているので、観測班の人は上空にいるようだ。

 崩落した地面から上がる土埃が酷くて、穴の中は見えない。ただし穴が広がるにつれて中央にあった巨大な樹、及びその根元にあった瓦礫が沈んでいっているので、まぁ、取り込んでいるんだろう。

 地面の崩落が続いていく。一定のテンポで、半径分だけだんだんとその範囲を広げながら。瓦礫が密集していた街跡地のような場所の範囲を越え、瓦礫が埋まっていた範囲を覆い、そして崩れた防壁のようなものがあった場所に届いて、


「あの地下で反応があった場所は全部、でしたか。まぁそんな感じはしましたけど」


 そこから少し離れたところ。土埃が止まらないのを見て私達も下がったその目の前……私の領域スキルが弾かれた場所までを崩して飲み込んで、ようやく止まった。

 もちろんとっくにエリア中央にいた召喚者プレイヤーは脱出しているし、土木工事をしていた召喚者プレイヤーも作業を急いで終わらせて合流している。ここで戦っていた召喚者プレイヤーも装備の点検と消耗品の補給は済ませていた。

 エリアを半分ちょっとも飲み込んだ大穴。これが今まで通り、穴までリソースであるなら、今日と明日で削り切るのはかなり厳しいかもしれない。だがここまで大きいのだから、流石に本体だろう。



 なんて思っていると――――ぞわ、と、土埃の向こうで、何かが蠢いた。



 そしてその何かの動きで、土埃が振り払われる。その何かを覆い隠していたものが無くなって、視線が通る。その何かを目視する事が出来るようになる。

 ……双眼鏡を構えていたり、メニューを開いて(中継動画を見る事で)その何かが見えた召喚者プレイヤーの内、うめき声をあげたのがベテラン勢で、悲鳴を上げたのが後続組だろうか。私は、ここからでも、目を凝らせば見えたから。


「なんとまぁ……見覚えのある・・・・・・形な事で」


 見えたそれは、群れを成して蠢く……左右の判別もつかない、黒い手、だった。

 1つ1つは大した大きさではない。長さは別として、「手」としてみるなら、大人のそれより小さいだろう。むしろ私程度しかないかもしれない。

 ……すなわち、「子供の手」だ。真っ黒になった「子供の手」が群れを成して、穴の底からこちらへ伸ばされている。


『スキル通りました! 名称確認「膿み殖える模造の禍命」! 「膿み殖える模造の生命」を元としたレイドボスで確定です! 戦闘準備をお願いします!』


 その悪趣味さに閉口している間にも、司令部(観測班)は仕事をしてくれたらしい。スキルで拡声された声による全体連絡が響き渡った。

 まぁそのオリジナルが何かっていうのは既に大体想像がついていた。それが確定になっただけだ。だから問題は。


「据え置きどころかさらに強化された自動回復能力と今まで散々「栄養にされた」事から見るに捕食に類する奪取能力、この2つは確定でいいでしょう。その上で恐らく今回もまた結晶となった精霊が捕らわれています」

「……改めて言われると、随分な相手だな」

「しかも精霊を助けない訳にはいかないし? そんな相手を掻い潜んなきゃいけないんだよね」

「どうせあの穴まで含めて相手のリソースなんですし、見えてるところから削っていくしかないですね」


 要救助者がいるって事なんだよな。

 オリジナルの時は特殊アイテムで救助できたけど、今度はやっぱり前回と同じく直接あの結晶を探し当てなきゃいけないんだろうか。

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