第2105話 67枚目:潜んでいたもの

 私たちのいる横穴からでは脚(?)の先しか見えなかったが、地上で戦っていた召喚者プレイヤー、そして大穴全体を見える位置からの動画では、大変な事になっていた。

 まず大穴から出てきたのが、巨大な鋏だった。恐らくエビだと思われるのだが、太くて平たくて、スコップみたいになっていた。そしてそれで周囲にいた召喚者プレイヤーをごそっと一掃。大半は逃げられたと思いたい。

 で、次に出てきたのも鋏。そしてその次も鋏。大きさは後ほど小さかったが、それでも十分に巨大だし、たぶん掴まれたら即死だろう。……ここまでは、鋏の数が多いだけでまだエビだったんだが。



 その鋏を出した根元が、魚だとは思って無いんだよな!!



 上に飛び出した目と特徴的な口の形から、司令部曰くハゼ系統。実際にどうかは分からないが、これはそういう形をしただけの「像」だ。その辺事実と違うとか言っても無駄だろう。

 そのままするすると無数の脚を使って出てきた「凍て食らう無尽の禍像」の全体像は、ハゼにエビの脚(鋏×3対を含む)をくっつけたもの、だったらしい。

 ただし、鱗代わりにかハゼ部分にエビの殻のようなものがあるらしく、ハゼがエビ型の鎧を着た姿、とも言えるかも知れない。どっちにしろ異形ではあるし。


「しかし、地上は酷い事になってますね……」

「そりゃそう」

「アクティブなレイドボスかー……」

「きっちりばら撒きもするし」

「でかいはパワーなんよ」


 暴走している大型トラックを生身の人間が止められない。束になったところで無理なものは無理だ。……そういう光景が広がっている。これはひどい。

 しかも動くたびに大量の胞子と疑似モンスターをばら撒いていくから、大変な事になってるな。流石にあんな大きさのが通ったら竜巻を維持できなくなって、私達はフリーになっているが。

 ……そういえば、穴の底はどうなったんだろうな? ちょっとのぞいてみるか。


「……うーわ」

「……どうするんだ、お嬢」

「どうしましょうね……いえ、何とかしないといけないのは確かなんですけど」


 大穴の底には何があったかって? ……大量の疑似モンスター、動けない奴がひしめいていたよ。しかもそれだけじゃなくて、今出て行ったばかりのエビ鎧を着たハゼと同じ形をした、大きさは半分ぐらいの奴も見える。1体じゃない、いや、本体じゃなかったのか?

 でも観測班はあれを「本体」だと判断した。という事は……核が別のパターンか。という事は、あそこにいるのは本体の予備だろうか。胞子を溜めておけば、核が戻り次第胞子を吸収して巨大化すればいいだけだもんな。

 とりあえず司令部の人にも来てもらって、大穴の底を確認してもらう。……何か蠢いてるのは見えるが細かい事は分からない、と言われたので、私視点のスクリーンショットを渡しておいた。


「これはひどい」

「あのでかいの倒しても終わらんのか」

「あれ倒したら終わりだと思うじゃんよー……」

「まぁこの段になって出てきたでかいのだもんな」

「だが終わらないのだった」

「で? 司令部、あれ倒したら終わりにするん?」

「そうですね。その方向で動くことになりそうです」

「終わりにする?」


 同じ画像が回ったのか、召喚者プレイヤー勢はそんな会話をしていたけど。そしてそこに出てきた確認にサーニャが首を傾げていた。うん。まぁ私もそういう方向で動くのかなって思ったよ。


「サーニャ。今地上では、大物相手に激しい戦闘が行われていますね?」

「そうだね?」

「ところがこの大穴の底を見る限り、あの大物を倒しても次が出てくるのはまず間違いありません」

「だろうね」

「しかし、大物を倒す前に底にいる敵性力を一掃しておけば、今地上に出て行ったあの大物を倒す事で、この場における胞子の元凶を倒し切る事が出来ますよね?」

「そうなるね。……あー、それで終わりに「する」なんだ。なるほどね」


 無事伝わって何よりだ。

 敵の残機は事前に潰しておくに限るからね。復活なんてさせてやるものか。

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