第2106話 67枚目:底へと向かう

 まぁ放置する訳にも行かないし、実際どこまで掘り進められてるかは確認した方が良い。何ならいくらか埋めておいた方が良い。

 順当にそういう結論になったところで、問題は大穴の底まで降りる方法だ。竜巻は既に止めているが、今もばら撒きの余波なのかなんなのか、上から疑似モンスターが降ってきている。

 胞子製同士だからなのか、途中でお互いにぶつかったり、大穴の底にひしめいているやつらにぶつかったりしても砕ける事は無いようだ。なんならそのまま合体して形を変えて、動ける奴になったら大穴を登って行ったりする。


「とはいえ他に方法もなさそうですし、更に深い場所への横穴も底に辿り着けるほどではないんでしょう? 各自で浮遊もしくは飛行の用意をして、領域スキルを展開してそのまま落ちるしかないのでは?」

「……実質退路がない方法なんだが」

「上からあのでかいのが戻って来た時点でいずれにせよ詰みですよ」


 たぶん逃げてる時間は無い。死にかけでそのまま仕留められるなら助かるかも知れないが、瀕死になった時に自爆をされればそれだけで逃げ場が無くなるからな。レイドボスの自爆ともなれば、防御を重ねた程度で防げるものでもないだろうし。

 どうやら他の横穴にいた人達もそれぞれ消耗品を確認して、同じ方法で突入するらしい。まぁ別動隊として動くんならそうなるか。いくらかは地上から応援も来てるだろうけど、「凍て食らう無尽の禍像」本体との戦闘が大変な事になってるからな。

 大穴周囲の戦闘が激しいって事は、当然だがばら撒かれる胞子の量もすごいって事だ。という事は、エリア外縁部の雨による防衛ラインでの戦闘も激化しているだろう。戦力の余裕はないと見るべきだろうし。


「ところで、結構積もってるみたいだけど、あんな場所に突っ込んで姫さん大丈夫?」

「たぶん大丈夫でしょう。流石に即死する程の量ではないでしょうし、最悪でも領域スキルの周囲に防御を張って耐えます」

「致命傷を負う可能性は否定しないんだね……」


 まぁそれはなぁ。今こうやって見ている間も胞子の全体量が増えてるのを見たら、全部消すのは大変そうだってぐらいは思う。私が死んだら私の周りにいる人達も全滅するから即死は出来るだけ回避するが、ノーダメージって訳には行かないだろう。

 とかやってる間に、司令部の人から突入の合図があった。……フリアド式バキューム(タンク無し)、誰も持って無いと思ったけどインベントリに入れてただけだったのか。まぁ確かに対策装備として出てきたものだから、これでないとどうにもならない、っていう可能性はあるからな。

 私も風の精霊さんに一時胞子集めを中断してもらい、念の為周囲に風の幕を作ってもらって移動開始だ。もちろん空気の足場を使ってゆっくり降りる。大穴の底の様子を見ながら。


「しかし、やはりというか何というか、降ってくる奴がばら撒いてる胞子もあって、辿り着くまでもそこそこの量になってるみたいですね」

「まぁそうだろうな。で、お嬢。範囲を縮めるのか?」

「……。いえ、このままいきましょう。もし突然負荷が跳ね上がったら、他の場所の人達を拾う必要もありますし」


 領域スキルの範囲はそのままにすることにした。もちろん展開する形は基本である球型に戻したが、まだ十分余裕はある。なら道中の短い時間とはいえ、本当に限界が来るまで回復力関係と耐性関係のスキルに経験値を入れておくべきだろう。それで最後のひと踏ん張りが効くかどうかが変わるかも知れないし。

 ま、もちろんそんなギリギリの状態になんてならない方が良いんだが。……そうやって備えていたら「オッケー使わないのはもったいないし使えるような状況にしたよ☆」と言わんばかりに、大体は致命的な事になりかねない状態になるし……。

 こういう備えは無駄になってこそだし、そもそも回復力と耐性なんて絶対に腐らない能力なんだから、そんな状況は無くていいんだけどなぁ。

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