第2100話 67枚目:行動か変化か

 私達は場所を移ったが、元の穴はまた別の人達が入れ替わりで攻撃に使っているし、なんなら他の砦から潜れる横穴にもそれなりの戦力が移動している。当然ながら地上での戦闘と上からの攻撃はそのままだ。

 なので、私達が場所を移った直後ぐらいに「凍て食らう無尽の禍像」の体力バーは、その下段が5割を切った。特殊行動もしくは行動変化のタイミングであり、オリジナルは回復技を使ってきたせいで削り切れなくなったのだが。


「こう来ますかー……」


 案の定、というべきか、「凍て食らう無尽の禍像」の特殊行動も、回復系だった。胞子によって回復するのは分かっている事なのだが、だからといって、細い柱のようなものの先だけではなく、途中にも例の球体が出来て勝手に爆発、胞子を撒き散らすようになるとは思って無いんだよな!

 まぁオリジナルと違って、絶対に火力で削り切らなきゃいけないって訳じゃない。それに横穴を掘っていてそこに戦力が移動していたのもあり、ギリギリ胞子の排出というか、吹き散らしによる密度の低下は追いついている。

 ……問題は、その胞子の大量放出に合わせて疑似モンスターも大量発生するし、それによって大穴の壁が筒の束みたいなやつだらけになってるって事なんだけどな。あのダンゴムシ(仮)も怪獣サイズのアシダカ系も、筒の束みたいなやつがいくら密集してても、すり抜けるようにして移動できるらしい。


「可能な範囲で迎撃してはいますが、それでも増える方が多いですね。たぶんこのままだと、壁にあの噴水みたいなやつが発生するのも時間の問題なんですけど」


 ちなみにその迎撃をするのに、エルルとサーニャは前に出ている。私もちょっと領域スキルの範囲を広げ、この横穴の周囲まで胞子が消えるようにしているんだが、それでもちょっと間に合って無いな。

 ま、今優先するべきは胞子の排除であり、疑似モンスターは胞子の絶対量を増やすとは言え、特殊行動が終わってからでも対処できる。……これが特殊行動であり、行動変化で無ければ、だが。

 ただそれでも、胞子の排除さえ間に合っていれば、爆発する事で細い柱のような部分にもダメージが入っている。つまり、勝手に「凍て食らう無尽の禍像」の体力は減っていっている訳だ。


「……。特殊行動ではなく行動変化のような気がしてきましたね」


 これがもし残り体力3割を切るところまで続く、とかだったらやばいな。もちろん胞子の排除の手を緩める訳には行かないが、もうちょっと疑似モンスターを減らしておかないとまずいかも知れない。

 とりあえずカバーさんに推測をメール。それからもうちょっと領域スキルの範囲を拡大。主に大穴の内側に向けて。んでもって風の精霊さんに声をかけて、絶賛稼働中のジェットファンの風を強化してもらう。

 その様子を見た団扇の人からバフが欲しいと声がかかったので、腕力と器用が上がるバフをぽいぽいかけてと。おー、一気に扇ぐ速度が上がったな。


「うおっ!?」

「ちょ、召喚者下がって!」


 なんてやっていると、最前線、ちょっと横穴の外に出て疑似モンスターを迎撃していたエルルとサーニャが慌てだした。何が起こった? 私のいる場所は横穴のそこそこ奥だから見えないんだよな。

 こういう時は、大穴を上空から映している観測班の中継動画をチェックだ。で、そこに映っていた光景は何だったかというと。


「……大穴の際に沿って、強力な下降気流を起こした感じですかね。で、それは下がり切ったら中央に集まり、上昇気流になると」


 壁を登って地上に向かい、その途中で筒の束をばら撒いていたダンゴムシ(仮)と怪獣サイズのアシダカ系。それが強力な風で吹き飛ばされ、ばらばらと穴の底へ落ちていくものだった。

 ついでに半径の3分の1ぐらいの太さな黄色い柱に見える程の密度で、穴の中央から胞子が吹き上がっている。排除の方も問題なく行われているようだ。地上まで上がったら周囲に拡散して、フリアド式バキュームや風の精霊さんによる風の渦に吸い取られている。

 たぶんカバーさんに送ったメールが司令部に届いて、そこからすぐ動いた感じだな。司令部もこのままだとヤバいって判断したか。……若干、私の実績かも知れないが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る