第2097話 67枚目:根元の下

 地下で土木工事をしている間も地上では戦いが続いていた訳で、いくら兵器珊瑚みたいな奴の殺意が高くても、端から削れるなら後は手数でどうにかなる。そして兵器珊瑚みたいな奴がいても完全に「凍て食らう無尽の禍像」を守れる訳ではないらしく、体力バーは徐々に黒く変わっていったようだ。

 で。地下の土木工事というか土砂の撤去が大体済んだ辺りで、かなり兵器珊瑚みたいな奴は根元の方まで見えていたらしい。だが問題なのは、これだけ連射してくる刺脚(投擲形態)の元となる胞子がどこから供給されているのか、それが全く分からない事だ。

 流石にこのデカいのの中に胞子を作ってばら撒く部分がある訳じゃないだろうし……とちょっと地上の本隊と司令部が悩んでいるあたりで、地下は最後の土砂を吹き飛ばし、戦闘を再開した訳なんだが。


「……。なんかありますね」

「あるな」

「あるわね」

「ちょっと遠いか?」

「司令部ー。物理と魔法どっちが効きそうー?」

「全体が見えた訳では無い為かアビリティは通りませんが、破裂して胞子及び疑似モンスターを出現させている他、構造的にも地上に出ていた部分にあった球体に酷似しています」

「あいつらこんな地下からわざわざ穴の縁を登って行ってたん?」

「にっじゅうよーじかん」

「止めろ」

「アウト」

「確かに壁を登っての出勤だけども」

「あれ出勤だったんか……」


 っく、誰だ歌い出したのと出勤って言ったの。ちょっとツボに入ったじゃないか。私も昔のCM特集みたいな番組で見ただけなんだけど。

 それはともかく、あの兵器珊瑚みたいな奴も地味に上に上がっていってたのか、それとも横穴にちょっかいを出している余裕がなくなったのか、あるいはまだ気づいていないだけか。横穴から見える範囲と注釈はつくが、地上部分に似た構造の場所があるのが見えた。

 で、見ている間にも次々膨らんでは破裂し、大量の胞子とダンゴムシ(仮)及び怪獣サイズのアシダカ系をばら撒いている。たぶん筒の束みたいなものや冬虫夏草モデルの噴水みたいなものも出現してるんだろうが、それは下の方に落ちて行っているようだ。


「それにしても、これだけの数が出現し続けているのなら、いつまで経っても胞子が排除しきれないというのも納得しかないですね……」

「そうか、動かずに大量の胞子を吐き出す奴がいたな」

「ここからだと見えないけど、全部下に落ちてる感じだね。……あれ? 姫さんたしか、こいつの本体って地下にいるんじゃなかったっけ?」

「推測ですが、その可能性は非常に高いですよ」


 大量の胞子がばら撒かれ続けているので、視界は最悪だ。それでも何とか見えた範囲でそれだけの事が分かったのだから、本当はもっと出現していると思うべきだろう。

 で。サーニャの言う通り、胞子を撒き散らすうちの動かない形態の奴は、下に落ちて行っている。そして「凍て食らう無尽の禍像」の本体は、恐らく今も地下へ地下へと進んでいっている筈だ。

 ……うん。まずいな?


「ねぇ姫さん、これ、竜巻ぐらいは起こして一気に吹き飛ばさないと間に合わないんじゃないかな」

「どうせなら全員で協力しましょう。地上へ連絡と警告を。私も含めて魔法を連携させればいくら胞子があっても吹き飛ばせるはずです」

「合体魔法で特大竜巻?」

「どうせならあの機関銃みたいなやつ吹き飛ばそうぜ」

「いいね。ちょうど根元も見えるぐらいの距離にあるみたいだし」

「周りから胞子吸って撃つんだったら、地上まで吹っ飛ばしたら沈黙するか?」

「爆発して大量の胞子にはなるでしょうけどね」


 と、思ったのは私だけではなかったらしく、サーニャに同意して威力を拡大する方向に意見を出すと、次々と賛成の意見が挙がって来た。エルルは若干「時々召喚者はタガが外れるが、こいつらもか……」みたいな顔でベテラン勢を見ていたが、まぁ、時と場合によっては、ねぇ?

 そして口に出して反対しないって時点で、エルルもそれぐらいはしないと間に合わないって思ってるんだろ? ほら、いいからこっちきて合体魔法の相談に混ざるんだ。制御が下手なサーニャに私とエルルが合わせて、ベテラン勢との調節をする役になるんだから。

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