第1933話 64枚目:突破方法

 しばらくして、司令部が更新する全体連絡用のスレッドに、地盤崩落が起きた範囲の中に大量のモンスターが出現し、各地にある拠点を襲ってきている事が書きこまれた。

 まぁ司令部なので、既に大体は対処できている事と、液体釣りの継続、移動する場合の注意点なんかが一緒に書き込んであったけど。確かに対処は出来てるけどもだな。

 いや液体釣りをして「伸び拡がる模造の空禍」の体積を減らさないと、いつまで経っても終わらない。それは確かだ。だから優先するべきは液体釣りなんだが。間違っては無いんだが。


『「第三候補」、少し良いか』

『何でしょう、「第一候補」。一応は戦闘中ですが大丈夫ですよ』


 うーん、と思いつつも、土曜日の夜のログインでモンスターの群れを相手に戦闘中だ。当然気は緩めていないし、そもそも詠唱して魔法火力として後衛のお仕事をしている。割と忙しい。

 しかしそんなタイミングで「第一候補」から連絡が来るとは、やっぱりなんか見落としてたか? 主に相手が吸収できない神の力でどうにかする系の手段を。


『まず前提としてであるが、そちらの大陸では神の力が通り辛い。これは知っておるな?』

『えぇ、聞いています。神殿も建てられているようですが、いつもより神の力を借りるアビリティのコストの下がり方が遅いと』

『うむ。まぁ、目に見えるところだとそうなるであろう。そしてそれ故に、そちらの大陸の事を神々は把握し辛いであるし、当然、神々側からの接触も難易度が高いである』

『でしょうね』


 結論から入って前提条件や経緯をすっ飛ばす事の多い「第一候補」にしては、珍しく前提の確認から入ったな。そしてそんな状態でも保護しなきゃ絶対後でまずい事になる迷子の事を教えてくれたボックス様のありがたさよ。最高か? 最高だった。

 まぁボックス様は元々外から来た神だから、土着の神々よりはその辺融通が利くのかもしれないし、後は私の信仰値が高いからって理由もありそうだが。おっと、今は「第一候補」の話だった。


『故に、少々把握に時間がかかったと思われるのであるが……「第三候補」』

『なんでしょう』

『今相対しているのは、「伸び拡がる模造の空間」に手を加えられた存在であるな?』

『えぇ。名称も「伸び拡がる模造の空禍」だったそうですし、とりあえず今見える範囲の見た目と行動的に間違いないかと』


 うん? そんなもんわざわざ私に確認しなくたって、「第一候補」自身が掲示板を確認すれば済む話だろうに。忙しくったって、パストダウンさんは絶対に把握しているだろう。「伸び拡がる模造の空禍」の姿を捉えたスクリーンショットも張り付けられている筈だし、行動の細かい部分も書き込まれている筈だ。

 それを何故今。と、内心首を傾げたのだが。


『……ふむ。では、「第三候補」。“細き目の父にして祖”からの託宣を伝えるである』


 お、っと?


『長らく保持し、奇跡を願う媒体として使用するたびに、より多くの火を内に込めしかの神器。“細き目の母にして祖”が与えし神器と共に、地下で繋がる穴の一つを奪い返し、そこに埋めよ。――以上である』


 …………あー、あー。うん。なるほど。そうか。そうだった。


『託宣、確かに受け取りました。……そう言えばオリジナルの時も、結局最後の最後でティフォン様のお力を貸していただきましたね』

『で、あるな。しかも今回、神の力と精霊の力以外は吸い取るようになっているのであろう?』

『えぇ。ですからエルルとサーニャでも手が出せず、火力不足でじわじわ追い詰められていたところです』

『戦況が芳しくないのは把握しているである。故の託宣であろうな。もっともそれも、その地における事情で遅くなったようであるが』


 そう言えば、作れるな。作れるって言うか、半分召喚するというか。

 思いっきり熱を蓄えていつでも噴火オッケーな、ほぼほぼ純粋な神の力に満たされた、活火山。

 そうか。ここで使う物だったのか。あの神器のセットは。

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