第1710話 58枚目:レイドボス撃破

「よくある事とはいえ、最後の1割は暴走しっぱなしとは思いませんでした」

「クカカカカ。まぁでも狙いも何もなく暴れるだけじゃったからの。どうとでもなるじゃろ」


 なるだろうか。少なくとも「分光結晶」を加工した板を通して見た他のステージ、特に中堅以下のステージは散々な状態なんだが。ベテラン勢もだいぶ疲れてるみたいだし。それ以上にお祭り騒ぎになってるけど。

 まぁ、レイドボス「均し富める模造の魔臼」の体力は、そうやって削り切られた。いやー、流石に怖かったぞ? めちゃくちゃ巨大な石臼が、跳ね回るようにして暴れながら黒いもじゃもじゃを振り回してくるのは。

 流石に1割を切って暴れ出してからは捕まえられても回復される事は無かったようだが、投入口に放り込まれるのは変わらないし、微塵切りじゃなくて握り潰される形になってたみたいだから……いや、大惨事だな。


「で、この空間は残っている訳ですが……他の場所と合流出来る訳ではないんですね」

「そのようじゃの。ところで「第三候補」、気付いておるか?」

「周囲にやたらとモンスターの気配が湧いている事ですか。それともそのモンスター達が何かを追い回すような動きをしている事ですか」

「気付いておるなら良いのじゃ。儂はちとその追われている方を捕まえてくるでの」

「流石に砦クラスの防衛陣地は作れませんからね」

「そこまでは言わんわい。逃がさず守れれば十分じゃ」


 あの大暴れする石臼の相手をして疲れているし、残りログイン時間がそろそろまずいのだが、逆に元気になっている「第二候補」はさっさと行ってしまった。司令部からも特に何か指示が来ている訳ではないし、ボーナスステージになったって事だろうから、いいんだけどさ。

 逃がさず守れれば。……つまり、捕まえた何かを逃がさないように、それでいてその何か狙いのモンスターからは守れるように、檻兼防壁を作れって事だ。とはいえ私も慣れてきたので、壁系魔法を基本にして簡単な防御陣地ぐらいはすぐに作れるんだけど。

 四角を二重にして、内側の四角に蓋をするように天井をつけ、壁の一部に穴を開ける。通路になるその穴は内側と外側で逆方向に開けてと。いや、「第二候補」なら上から出入りできるから、外側の壁の穴はいらないか。


「おーい、「第三候補」ー。これはどこから入ったらいいんじゃー?」

「普通に飛び乗れるでしょうから、いらないかなと」

「儂は良くても捕まえた相手がダメじゃろう」

「むしろ逃げられなくていいんじゃないですか?」

「本当たまにじゃが妙なところが雑になるのー。それより、ほれ」


 「第二候補」ほどじゃないと思うんだが。と思ったところで、何かを抱えた状態で外側の壁へと飛び乗った「第二候補」が、その何かを私の方へ差し出してきた。

 どうやらモンスターの群れに追い回されていたらしいそれは、一言で言うと、茶色い種を抱えた棒人間、だ。棒人間のサイズは大体50㎝ぐらい、種のサイズは30㎝ぐらいだろう。棒人間といっても胴体が縦長の楕円になっているタイプだし、見た目はともかく一応実体はあるようで、じたばたと足を動かしている。

 とりあえず棒人間ごと受け取ってみると、なんかぷにぷにしている。何だこれ。


「え。本当にこれが逃げ回ってたんですか?」

「これじゃの。どう見ても抱えておる種が重要じゃろうから、種だけ回収しようとしたんじゃが、意外と力が強くてのー」


 ……。「第二候補」で奪えなかったって、結構力強いんじゃないだろうか、こいつ。奪う前提じゃないのかもしれないが。

 しかし触り心地がいいな。ウォーターベッド的なぷにぷにだ。相変わらず足をバタバタ動かしてはいるが、別に捕まえた相手を蹴ったりするわけではないらしい。

 しかし正体不明のままだと対処に困る。という事で【鑑定☆☆】だ。


[アイテム:富める種粒

耐久度:100%

説明:植えた者の望むものが実る不思議な種

   そのまま食べても良いが、増やす事は出来ない]


[アイテム:古代の人工使い魔

耐久度:100%

説明:遥か昔に一部地域で利用されていた使い魔

   既に主はいない為、適切な手段を取れば拾った者が使役できる

   道具の保全が本来の役割]


「……。「第二候補」」

「なんじゃ、「第三候補」」

「これを追いかけて集めてくるのと、この場で防衛戦するのとどっちがいいです?」

「なら防衛戦をするかのう」


 うん。まぁ。とりあえず。

 終わった後まで取扱注意のアイテムが出てくるとは思わなかったな!

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