第1709話 58枚目:詰め筋確定

 塵も積もればなんとやらというべきなのか、最終的に特殊行動が終わった時点での「均し富める模造の魔臼」の体力は3割半ぐらいだった。3割を超えたからか一旦黒いもじゃもじゃは引っ込み、通常回転しながらモンスターの素材や武器を飛ばしてくるターンとなる。

 どうやら今の特殊行動で根っこは全て無くなったらしく、どれだけ石臼の下を掘っても何も見つからなかった。時々別の場所から穴を掘って来たらしいモンスターとは鉢合わせたけど。

 ……モンスターと遭遇するって事は、この特殊行動の後だと、モンスター側に「生命樹の木材」が渡ってた可能性もある訳か。事前に気付いてほぼ回収出来てて良かった。絶対碌な事にならない。


「ただ問題は、残り1割をどうやって削り切るかなんですが」


 あの手当たり次第に掴んで吸収しようとする状態で、どうやって体力を削ったらいいのか。それが全く分からない訳だが、再び「均し富める模造の魔臼」の残り体力が3割になった時に、全体情報共有用の大きな看板に書き込みがあった。

 急速回復の原因である「生命樹の木材」はもう無いし、召喚者プレイヤーとモンスターを含む周囲の物を吸収しての回復には限界がある。もちろんこちらの火力の都合もあるから、微々たる回復量でも十分に厄介なのだが、それでも一応、あの特殊行動中でも、黒いもじゃもじゃに攻撃すれば、それを吸収して変化する分は体力が削れていたらしい。

 なので、次に残り体力が1割になったら、周辺被害が出る事を承知の上で、手数という意味の飽和魔法火力を叩き込む、という事らしかった。


「まぁそれしかありませんよね。事前連絡があれば、少なくともベテラン勢は何とかするでしょうし」


 もちろん私もしっかり自分を守りにかかる。まぁ当然ながら、私が攻撃に参加すると大変な事になるからな。黒いもじゃもじゃと引き換えに増やされた分は威力が落ちると言っても、元が高いと周辺被害が大変な事になるから。


「うーむ、大変な事になっておるのう」

「おや「第二候補」。ギリギリですが間に合いましたか」

「案の定ギリギリじゃったがな。しかし、「第一候補」も忙しいのう」

「全面的に相手が悪いんですけどね」

「それはそうじゃ」


 ……で、そういう話になっていると把握したタイミングで「第二候補」が来るのは、いいのか悪いのか。たぶん本人的にはいいんだろうけど。

 とりあえず「第二候補」にも「分光結晶」の加工品ごしに大きな看板を確認するように言って、状況を把握してもらう。素材と武器は飛んできてるんだが、流石に質が落ち過ぎているのか、壁系魔法に防御魔法を重ねたら防げるレベルだ。


「なるほどのー。ところで「第三候補」」

「ダメです」

「まだ何も言っとらんのじゃが」

「残り1割を削る火力勝負もしませんし、お互いに攻撃を入れてばら撒かれる反撃の弾き合いもしません。他のステージの被害を考えて下さい」

「その方が勝負は早く着くと思わんかの?」

「ダメです」


 残念そうにしてるんじゃねーんだわこの戦闘狂バトルジャンキー。私が珍しく単独行動だからって、本人よりはしゃぐな。大人しくしてろ。特級戦力の待機が必要なくなったら好きなだけ野良ダンジョンで遊んできていいから。

 実際ここまで攻略の方針が決まって、必要な手順も全部済んでる以上、流石にここからもう一波乱はないと思うが、レイドボスは良くてもゲテモノピエロは警戒しなきゃいけないんだから。

 たぶん体力は召喚者プレイヤー側優位で削れたと思うんだけどな。たぶん。恐らく。今までの状況を見る限りは。あの大きな看板にも詳しい事は書いてなかったし。


「ならいっそ他の場所を攻略しに行かんか」

「物資集積場の襲撃数の勝負もしません。戦略的に待機してて下さい」


 だから大人しくしてろって言ってるだろ。この場にいるのが今の仕事だ。それに今襲撃をかけたところで、手に入るのは「富める欠片」一択だろうし、それもそんなに量は無い筈だ。というか、あったら困る。それだけモンスター側がダメージを与えてたって事だし。

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