第1705話 58枚目:行動変化

 石臼の動きを止めている氷は「一塊」という判定になるらしいので、遠慮なく炎の剣で焼き尽くす。そして石臼が再び動き始める前に、私はその根元へと飛び込んでいた。

 根元というか真下も上と同じ判定になるのか、攻撃が飛んでこない。なので石臼本体を支える柱の追加だけを忘れないようにしながら、土を掘って根っこを掘り出して、ガンガン攻撃していく。

 魔法で攻撃するのが増えただけで、やってる事は変わらないんだよな。旗槍で物理攻撃した分は変わらず回収してるし。それにどうも根っこというのは単なる支えではないらしく、魔法攻撃は何割か吸収されている感じがする。


「たぶんこれ、「第二候補」に頼むか、大穴を開けてエルルに切り落としてもらった方がいいやつですね」


 横一線に広範囲を攻撃する大技を使って、一度でいいから完全に切り落としてもらった方がいい気がする。もちろん支えを失った石臼本体がどうなるか分からないが、こうやってちまちましているよりはマシだろう。

 まぁ魔法攻撃が何割か吸収されると言っても、残った分で根っこの体力が削り切れる程度のダメージが通れば問題ないんだ。とりあえず今の所、根っこが吸収して本体の体力バーが回復したって話は聞いてないし。

 問題は、今も絶賛集中攻撃されて減り続けている筈の、本体の体力バーをどう確認すればいいか、なのだが。


「……便利と言えば便利なんですけど」


 根っこは攻撃してこない。だから時々「分光結晶」を加工した板を通して周りを見る余裕がある。その途中で気付いたんだけど……石臼の底部分に、たぶん本体っぽい体力バーが出てるんだよな。

 いやまぁ確かに、本体を見てると言えば見てる事になるんだろうが……。となんかこう言葉に出来ないもやもやがあったが、便利である事には違いない。流石にこの状態からいちいち外には出てられないし。

 穴を掘る魔法で根っこを掘り出しては攻撃を叩き込み、時々「分光結晶」を加工した板を掲げて周囲を確認する、という事を繰り返している内に、「均し富める模造の魔臼」の体力バーの残りが、3割になった。


「おわっ!?」


 瞬間、大きく地面が揺れた。ばらばらと土や小石が転がる音がするから、これは空間じゃなくて物理的に揺れてる。

 とはいえ上に巨大な石臼がある状態で地面が揺れると、万が一根っこの無い場所に傾いたりしたら脱出が大変になる。それに何か起こるとしたら外だろうし、流石に再び超強力な吸引が行われている訳じゃないだろうから、一回脱出した方がいいだろう。

 という事で、自分で掘った穴を飛び出し、そのまましばらく距離を稼いでから石臼の方を振り返ってみた。


「え、何ですかあれ」


 ら。

 なんかこう……自然発火が心配になる程絡まったコードの塊か、何を描いたのか全く判別できない子供の絵みたいなものが、石臼の、上下の境目からもじゃもじゃと出てきてたんだよな。

 「分光結晶」を加工した板で周囲を見回してみても、皆困惑した状態で距離を取って見守っているようだ。まぁそうだな。あれはちょっと何が何だか分からない。

 ただまだ地面の揺れというか、たぶん石臼そのものの揺れは続いてるし、その黒いもじゃもじゃも吐き出され続けている。体力バーを確認すると3割のままだから、あれが特殊行動なんだろう。


「……増やしたものが出てくる場所から出てきてますし、エラーでも起こしたんでしょうか」


 どうやらそこそこ硬さがある、というか、たぶん針金みたいにもじゃもじゃの形で固まっているそれは、垂れ下がる訳でも上に上がっていく訳でもなく、ただその嵩を増していく。

 体力バーに変化はないし、たぶんあのもじゃもじゃを何とかしないとダメなんだろうが……とか思っている間に、どこかのステージで、その黒いもじゃもじゃに攻撃が飛んだ。たぶん魔法の、アイスアロー。

 様子見するならたぶんベストだっただろうその氷の矢は普通に飛んでいき、黒いもじゃもじゃに当たって、


「は、ちょ――っ!?」


 次の瞬間。

 黒いもじゃもじゃ全てが氷の矢に変わって、周囲へと発射された。

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