第1704話 58枚目:合間作業

 やっぱりものがものだったせいで、危うく竜皇様おとうさま案件になりかけた。かけた、であってならなかったのは、ニーアさんが魔族との生命樹の取引記録が竜都の大陸にあるお城の書庫にあるんじゃないか、と指摘してくれたからだ。

 有志による書類整理が続いていたお陰で目的の資料はすんなりと見つかったらしく、内容こそ教えてもらえなかったが、正規の手順で取引された事が確認されたようだ。

 ……まぁ、なら問題ないかというと問題はあるんだろうが、それでも絶対に必ず漏れが無いように回収する必要は無い。


「そもそもレイドボスですし、これからも倒すことが出来るというのを考えると、回収し尽くすのは無理なんですけどね」

「とはいえ、取扱注意の品である事は間違いありません。検証班に情報を回しておきます」


 という事で、後で合流したカバーさんから元『本の虫』組全体へ情報が共有されることになったようだ。そうだね。とりあえず普通に流通させても問題ないって事が分かった時点でルールに調べてもらったんだけど、相当な素材だったから。

 流石に木材にまで加工されているからか、ここから挿し木などで生命樹そのものを増やす事は出来ない。だが、例えばポーション類を作る道具をこの木材で作れば、それだけで出来上がるポーションの質と効果が跳ね上がる。

 もちろん装備に使えば体力(HP)と回復力に大幅なボーナスが付くし、家具や家に使ってもその効果はそのまま、プランターなんかを作れば、そこで育てた植物にも影響するという。


「とりあえず、今回は可能な限り私が回収するつもりですが……」

「少人数で倒せるような相手ではありませんが、以後の流通も注意した方が良いですね。召喚者プレイヤーより、住民の方々が欲しがるでしょうし」


 流石にベッドを作ってそこで寝れば寿命が延びる、という程の効果はないものの、連想ゲームがうっかり成功してしまうと大変な事になるからなー。竜族の皇族に口伝で伝わっている、とはいえ、神話ではあるのだ。どこかに伝承が残っててもおかしくない。

 という事で、レイドボス本体の体力に影響が出ないのもあり、せっせと臼の根っこを回収する事になった。いやまぁ、たぶん残機になるんだろうなっていうのは分かってるから、回収するのは必須案件なんだけど。


「あれ? そう言えば、臼を回す棒の所も木製だったような」


 ……レイドボスの一部という判定だからか、素材の名前は出てこなかった。それにここは本体の体力バーに影響するので、後でどうにかするか諦めるしかないな。

 気休めにしかならないかもしれないが、根っこを取った場所には氷で柱を作っておいて、回収を続ける。ただそれでも数と大きさがすごいので、回収だけに専念している間に、水曜日になってしまった。


「まぁ本来なら、普通に攻撃をするだけでもいいんでしょうけど」


 素材ではあるが、レイドボスの一部でもある。そもそもが大きいから、回収できた根っこは全体の3分の1ぐらいだろうか。レイドボス戦の本番となったので、土をどけて柱を入れて、範囲攻撃を連打するか壁系魔法を設置しまくる事になる。

 下手に市場に出すよりは、ここでいっそ破壊し尽くしてしまった方がマシなのかも知れない……と思っている間に、石臼の上に、カンペを持った司令部の人が上がって来た。

 今回ウィスパーは使えないし、もちろん拡声したところで他のステージには届かない。じゃあ開始の合図をどうするかって事で、こうなったようだ。そしてそのカンペには、『「均し富める模造の魔臼」討伐戦、最終部を開始します。連絡役退避後、10秒経ったら本体の凍結解除を開始して下さい』と書いてある。


「……それにしても、また1人になるとは思いませんでしたが」


 なお本日、「第一候補」は外の警戒に参加、「第二候補」はリアル用事が長引いてログインが遅れると連絡があったので、私は1人である。

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