第1703話 58枚目:進行障害

 どうやら地上から見ている限り、根っこを1本切り取って、残った部分を凍らせて砕いても、特にこれと言って変化は無かったようだ。体力バーが独立してるって事だな。

 地面に攻撃しても石臼の上に表示されている体力バーは減った筈だが、あれはもしかして石臼の根元、底の部分とかそのちょっと上とか、その辺りに当たった分だったのかもしれない。

 輪切りにすればちょっとした椅子の座面に使えそうな太さの根っこを端から刻むように切ってインベントリに入れて、イベント空間を一度撤退だ。……ただし、向かったのは司令部の所ではなく、自分の島だ。


『ところで「第一候補」今よろしいですか』

『うむ? 問題ないではあるが、何かあったであるか?』

『石臼の根っこに別の体力バーが表示されていたのでとりあえず切り出したんですが、その根っこの素材名が「生命樹の木材」だったんです』

『……生命樹であるかー』

『えぇ。それも私に分かる範囲の情報に「生命の神の強い加護を受けた木材」とあり、かつ「強い加護を受けた土地にのみ生える」とあったのですが』

『なるほど。……普通は分からぬだろうが、分かった場合には問題であるな……』


 たぶんこれ、竜都の大陸中央の、山の内側に守られてるあの湖の事だよなぁ……。っていう情報を見つけちゃったからな。説明したら「第一候補」も察してくれたらしく、だいぶ頭が痛そうな声が返って来た。

 もちろん、竜都の大陸中央に何があるのか、それを知っているのはアキュアマーリさんおねえさまに話を聞いた私と「第一候補」だけの筈だ。竜族の、それも皇族だけに受け継がれている神話なのだから、他に漏れているとは考えにくい。

 まぁこの石臼が作られたのは遥か昔だし、正式な取引が行われた上でのやり取りなら問題ない。精霊に近い変化を起こしたというのなら、個人の性格はともかくとして、性質としては中立か善に近かった可能性が高い。


『とはいえ、公表しない訳には行かぬからな。流石に「第三候補」も、1人で全ての根を排除するのは無理があろう?』

『臼そのものは共通ですし、エルルとサーニャに手伝ってもらったら不可能ではありませんが』

『あの2人は、まだ世界の方を優先してもらっているであるからな……呼び戻すのであれば、相応の理由が必要であるし』

『体力バーの問題だけだと、ベテラン勢を投入すればいい、になるでしょうしね……』


 だからたぶん、この「生命樹の木材」が召喚者プレイヤーの間に出回るのは避けられない。下手すれば既にゲテモノピエロ達が手に入れている可能性もある。爆薬があるなら、地面を掘るのも楽にできるだろうし。

 そして私でそこまで情報を引き出せたって事は、検証班の人達ならもっと情報を引き出せる可能性が高い訳だ。問題はその内容だが、今この状況でカバーさんを呼び出す訳にはいかないしな。

 ルールにお願いしようにも、うちの子生産組に気付かれずに図書館へ行くのも難しい。なお現在位置は神域ポータル経由で戻って来たボックス様の神殿の中である。うっかり見つからないように、屋根裏に移動してそのままウィスパーを飛ばしたのだ。


『いえ、その「生命の神の強い加護を受けた土地」がどこか分からなければいいんですけど』

『それはそうであるが、下手に流通させると混乱する可能性があるであるからなー。その出所は間違いなく調査するであろうし』


 主に竜族の反応が分からない。というか、反応したって事から関係性を推測されるのが一番まずい。でも明らかにあの場所関係の素材だって言う事には、まぁまず気付くだろう。特にハイデお姉様あたりは。

 という事で、私がこっそりとアキュアマーリさんおねえさまにアポを取り、事情を説明しに行くことになった。

 ……何かしら問題ばかりを相談している気もするが、必要な事だしな。うん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る