第1701話 58枚目:変わったこと

「んん~、流石にこれ以上時間を稼がれると、色々と困ってしまいまスねぇ……」

「困ればいいんです」

「これは手厳シい」


 ゲテモノピエロが下がり、私がその後ろに回り込む。『バッドエンド』所属の召喚者プレイヤーも流石に単純な突撃では絶対に攻撃が通らない事を学習したのか、じりじりと間合いを計っている間に、呑気とも言える調子でそんな独り言が落ちた。

 旗部分を巻き付けた状態の旗槍を構える私だが、実は言う程余裕は無い。何せ私のステータスだ。『バッドエンド』所属の召喚者プレイヤーも手応え的にかなり鍛えてきているが、それでも頭を狙って「気絶させる」のは難しい。主に手加減的な意味で。

 かといって、うっかり加減を間違え、ぱぁんっ、とやってしまい、装備者の死亡がトリガーとなって爆弾が爆発、とかになったら大失敗だ。それ目当てで一斉に飛び掛かられてる気もするし。


「しかし、よくもまぁここまでお優しくできまスね?」

「鍛えていますので」

「なるほど、なるほど。となると、簡単に楽にはさせて頂けない、と」

「自殺を助けるつもりはありません。もっと迷惑の掛からない場所でやってください。別の世界とか」

「勇敢な攻撃でスよ。自殺ではありません」


 半分以上自殺が目的の癖によく言う。正しくは、自殺からの巻き込みだが。もちろん手に持っていた武器も邪神の気配がしているから、掠りでもすれば儲けものなのだろう。

 そして大変神経を使っている割に、お互いのステータスが高いせいで大して時間は経っていない。もちろん時間を稼ぐことが実質勝利条件なのだが、それはゲテモノピエロも分かっているだろうし。

 ゲテモノピエロを追い回して退路を塞いでいる間も、【無音詠唱】と【並列詠唱】を使い、そこら辺に転がっている火薬や爆薬は念入りに凍らせている。だから、周囲の火薬を爆発させる、というのも難しい筈だ。もちろん、周囲にいる召喚者プレイヤーが「装備」している爆弾の威力にもよるだろうが。


「のんびりとお話ししていたいのも山々でスが、そろそろ本気で退きたいところでス。……通して頂けまセん?」

「その時間切れを狙っているのに、通す訳が無いでしょう」

「でシょうねぇ」


 出来得る限りの可能性は潰している。それが分かっているから、むやみに動かず様子を窺っているんだろう。もしくは何かの準備をしているのかも知れないが、流石に表面からでは分からない。

 会話を始めたのも、たぶん私の注意を引き付ける為。この間に周囲の召喚者プレイヤーも動いているのは分かっている。だから【王権領域】だけではなく、ぴったり同じ大きさに【調律領域】を重ねて展開した。

 そのタイミングで、ゲテモノピエロの顔、その右半分。ぎょろぎょろと動いて周囲を見ていた無数の目玉が、全て私の方を向いた。


「っ!?」

「……驚きまシた。これで意識が残るどころか、ほぼレジストするんでスか?」

「まさか、その、目玉……全て、魔眼だと……!?」

「おっとこれはいけない、撤収でス!」


 瞬間、全身に痛みが走り、金縛りのように動かなくなった。余程自信があったらしくゲテモノピエロも驚いていたが、私だってびっくりだ。フル装備で領域スキルを二重展開してその強度もあげて、【響鳴】で自分にも領域スキルの効果が出てる状態だぞ!?

 その私に状態異常を通すとか、実質防御不可能攻撃だろうが!? しかもこの感じ、たぶん麻痺と気絶の合わせ技だ。目玉が全てこちらを向いた事からしても、まず間違いなく魔眼だろう。ほぼレジストする、って事は、もしかしたらレジストした中に、気絶だけじゃなくて石化とか呪いとかも入ってたのかも知れない。

 油断した。目玉が生き物になってるのは見て分かってたのに、目玉がたくさんあったらそりゃ目の数だけしか習得できない魔眼スキルだっていくらでも積めるよなぁ!!


「……っち、逃がしてしまいましたか……」


 最後に通った麻痺も数秒で解除したが、その数秒があれば走って石臼から飛び降りるぐらいは可能だ。くそ、遭遇しておきながら逃がすとか、自分に腹が立ってくる。

 一応最終確認として周囲を見回すが、途中で根元を吹き飛ばした腕はどこにも見当たらなかった。代わりに筒状の爆弾を爆竹みたいに繋げた物が新しく転がっていたが、これは石臼が冷え切っていた為、霜に導火線が飲み込まれる形で不発だったらしい。

 あー、もう! やっぱりもうちょっと攻撃しとくんだった! 絶対カウンター食らってただろうけど!

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