第1699話 58枚目:不意の遭遇
多腕多足の姿を包むのは、暗めのオレンジ色と黒の縞模様を基本とした、血のシミだらけのピエロ服。顔の右半分は無数の眼球に埋め尽くされ、左半分は爛れ崩れている。頭の右半分は蠢くようにねじれた黒髪、もう半分はケロイド状の皮膚が露出しているようだ。
それは最初に見た姿と変わらない。そう、姿形そのものは変わっていない。明らかに人間にはない場所に飛び出している手足も、人間と同じ場所にある手足も、そこに絡みついている手足も、恐らくは何も変わらない。
変わったのは。
「随分と人間、いえ、生き物を止めたようですね。邪神の信徒」
「最初から人間などとは隔絶した化け物である貴女には言われたくありまセんねぇ、竜の姫」
その無数の目玉が。ねじれた黒髪が。人間のものではない手足が……生き物らしく、動いている、という事だ。
恐らく、最初は着ぐるみだった。もしくは飾り、仮面だった。だが、ここまで儀式を続け、捧げものをして、信仰を高めた結果。恐らくその装飾は、血の通うものになったんだろう。多腕多足は“破滅の神々”の得意とする形だ。
半径1m。石臼への着地と同時に自分だけを包むように【王権領域】を展開したが、とりあえず今はあの境目である陽炎は出ていない。まぁそれはそうか。ゲテモノピエロだって、石臼に吸われないように展開範囲は限定しているだろう。
「そもそも、野蛮なのでスよ。出会い頭に周辺状況も考えず、一方的な攻撃などと――」
「火薬を山ほど投入してばら撒くつもりだったんでしょう?」
やれやれ、と、人間の形をした腕を肩まで上げて見せるゲテモノピエロの言葉を遮る。そう。私が出合い頭、ゲテモノピエロの姿を見た瞬間に魔法を叩き込んだのは、こいつを仕留める為、
運び込まれていたのだ。大量の荷物が。そしてそれが投入口に放り込まれようとしていた。だからそれを氷漬けにして、石臼の上に張り付かせると同時に湿気させて、使えなくした。
もちろん凍っていたところで、それこそ北国の大陸で防衛ラインに大穴を開けた液体火薬とか、海中に投棄、海流による集積を狙った爆弾の火薬とかであれば、その機能は失われていないだろう。それでも、動かせなければ投入は阻止できる。
「火薬が大量に投入口に放り込まれた状態で氷による封鎖が解除されれば、武器や素材が飛んでくると思った
「ふっふフふ、想像力がたくましい事でス」
「あなた方がモンスター側と手を組んでいるのも知っています。
「ただの推測でシょう? 言いがかりとも言いまスねぇ」
「――[ファイアニードル]」
そんな会話をしつつ、私の周りを他の
凍らせたのも私の魔法だが、今回の方が多くの魔力を込めた。なおかつ、使ったのは過剰魔力を込めても大きさが変わらず、密度が上がるニードル魔法。もちろん速度も上がった小さな炎の針は木箱に刺さり――ドゴォオオン!! と、大爆発を起こした。
「いくら魔力を込めたところで、ニードル魔法に爆発力はつきません。むしろ貫通力が増していく筈ですが……何で、こんな派手な爆発が起きたんでしょうね?」
「ふフふフふ……随分と性格がひねくれてしまったようでスね? 嘆かわしい」
「色々あったものですから。えぇ。敵と敵が手を取り合ったりとか」
もちろん石臼の上でやった事なので、その爆発は吸収される。たぶん次に回り始めたら、まず爆発が起こるんだろう。
とはいえ、他のステージでもこの爆発は良く見えた筈だ。レイドボス戦として大きく動くことは無くても、私のログインは司令部の予定通り。つまり、最低でもベテラン
だからこんな爆発が起これば石臼の上を確認するだろうし、少なくとも私の姿は見えているだろうから、急いで動いてくれるだろう。だからここからは。
「それはそれは、大変そうでスねぇ。これからも頑張って下サい」
「えぇそうですね。とりあえず今この場では……その理由の一端である、あなたを殺してでも捕まえようと思います」
「ふフふフふ! 実に物騒、野蛮でスねぇ!」
「だったら紳士的に、自らの足で“天秤にして断罪”の裁きを受けに行って下さい!」
このゲテモノピエロを、逃がさない事に全力だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます