第1698話 58枚目:様子見待機

 ゲテモノピエロこと『バッドエンド』が仕掛けてきた訳だが、残りログイン時間の方もいい加減に厳しくなっている。かといって今から島に戻って生産活動という感じでもなく、私はイベント空間に戻って石臼の氷漬けをさらに強化しておいた。

 ほら、相手には爆薬があるから。特級戦力を引き剥がしたところで固定を外してモンスターによるダメージを積み込むとか、あのゲテモノピエロなら絶対やるし。

 残り体力が半分になったところで動きを止めているが、全てこちら側の攻撃であったとしても半分以上にはなってないし、この時点まででもモンスターからのダメージは入っているだろう。つまり、全く安心できないんだよな。


「ダメージレースの内訳が分からないのも不安だな……モンスター側のダメージ量と、プレイヤー側のダメージ量が分かればいいんだけど」


 ログアウトしてから思わず呟いてしまったが、フリアドの運営がそんな便利機能搭載してくれる訳がない気がするし。レイドボス出現メールにあんな条件が書いてあった以上、むしろ積極的に隠してそうだ。

 確かにその方が緊張感は途切れないだろうが、こうやって妨害が入っている以上は少しぐらい安心要素が欲しいんだけどな……。と思いつつ就寝。翌日は月曜日で平日なので、普通に大学へ登校だ。

 とはいえ、大学にも結構な人数のフリアドプレイヤーがいる。休み時間や移動中に聞こえた限り、野良ダンジョンが急に増えた事は知られていても、その理由までは知られていないらしい。まぁベテランなら察するし、新人に広めてそっち方向に興味を持たれるのも困るけど。


「あの配信者の動画でも、イレギュラーな野良ダンジョンの大量発生に気を付けるように、って注意喚起されてたし、大丈夫だとは思うけど……」


 もちろん動画を確認したのは家に帰ってからだし、この独り言も自分の部屋でなんだが。ゲームとリアルは分ける主義なので。

 とりあえず夜のルーチンという名の日常を過ごし、夜のログイン。最終決戦は水曜日の夜の予定だが、まさかその1回で削り切れるとは思っていない。だからそれまでに、少なくとも残り体力が3割を切った時の特殊行動は確認しておく予定だ、と聞いている。

 ログインしてクランメンバー専用掲示板を確認しても、その方針に変更は無いらしい。つまり、私はガンガン火力を叩き込む事になる。


「問題は手数が足りないって事ですが、まぁ仕方ありませんね」


 氷属性で動きを止めるのがメイン目的とはいえ、根元への攻撃でダメージが入らない訳じゃないからな。地面を掘ってから攻撃したら、若干だが通りが良かったから、ここからもそうしよう。

 しかし、臼に根っこがあるっていうのも訳が分からないが、その根っこを凍らせると本体も凍るっていうのも不思議だな。たぶん「そういうもの」って事なんだろうけど。

 と、悩みながらでも優秀な身体アバターはイベント空間の中を走り続けていたし、レイドボスが出現したからか道中にはモンスターも出てこなくなったので、無事に「均し富める模造の魔臼」の本体の所へ辿り着いた。結構距離があるんだよな。


「やっぱりうちの子とぐらい同じステージにしてくれてもいいのでは?」


 なんて呟きつつ、とりあえず一度「分光結晶」を加工した板を掲げて「均し富める模造の魔臼」を確認。正確にはその上に浮かんでいる、半分をドットいくらか下回った体力バーを確認する。うん。変化は……ちょっとだけ減ってるな。誰かが氷属性の攻撃を追加したか、それともモンスターが削った分か。

 と思ったら、「均し富める模造の魔臼」の上で動いている姿があった。おや? とりあえずこの時間で何かするとは聞いていないが、前衛系召喚者プレイヤーが使い魔である小人か人形みたいな影を倒してるんだろうか?

 でも、もし乗っているのが召喚者プレイヤーではなくモンスターだったら、それはちょっと困る。石臼の周囲は半分に分けて相互不干渉だが、石臼の上はそうじゃない。


「下手に投入口に落下されて、飛んでくる素材の量を増やされても困りますし……」


 生き物は入らないんだけど、あの使い魔っぽいの、小さくて狙いにくい上に数がいるからな。使い魔を倒されてダメージを積み込まれるのも、逆に倒されて素材として増やす対象にされるのも困る。

 だから、モンスターだったらとりあえず一掃するか、と思って「分光結晶」を加工した板をしまい、旗槍を持って石臼の上に飛び乗った。

 ら。


「っ――[アイスランス・ガトリング]!」

「おおっと、相変わらず勘が良いでスねぇ!」


 まさか。

 そこにゲテモノピエロがいるとは思わないじゃないか!!

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