第1640話 55枚目:手順確定

 まぁ回数が必要とはいえ、元々過剰火力である事には変わりない。少なくとも私が「彩られゆく空白の旗」を持って近くにいる間は、ダンジョン内でもオートマップを含む大神の加護召喚者特典が使えるし。

 という事で、ある意味周回となるダンジョン攻略をさくさく終わらせてみると、やはりというか何というか、いくつかの事が分かった。


「真ん中の……結局あれは塔でいいんでしょうか。あれの高さが残り回数と比例してるというのはほぼ確定ですね」

「塔で良いかと。そうですね。そして最後の1回では、ギミックの方のモンスターに特殊能力が追加されるのも確定で良いでしょう」

「あれか。歯車をばら撒いて壁とか床がモンスターに変わったやつ」

「壁の方は数が多いしぃ、床は文字通り足場が悪くなるからぁ、たぶん結構厄介だと思うよぉ?」

「ここまでの事を考えるとー、出現を見逃すと、回復されそうですしねー」

「というか、最後のあれは何か、いきなり防御力が上がってたような気がするんだけど。どうだい、エルルリージェ」

「ここまでより刃が通しにくい感じはあった」

「エルルで通りにくい感じがあるって、それはかなり防御力が上がってますね」

「召喚能力が解放された上で、これまでより多くの攻撃を行うか、長く戦闘する必要がある構造ですね。順当に厄介と言えます」


 ちなみに再出現のたびに迷路の構造は変わるし、ダンジョンレベルというものが上がるたびに罠の種類が増えて行ったので、たぶんその内十字路と回転床の組み合わせも出てくると思う。

 とりあえず出来る対策としては、とにかく魔法の松明を設置しまくる事だ。上から構造が見やすくなって応援に向かいやすくなるだけじゃなく、オートマップ無しでも「既に通った場所」が分かるようになるから。

 もちろんこの方法の問題点は、魔法の松明を数百どころか数千単位で消費する事だ。当然ながら、クラン向けの報酬で手に入っていた分だけでは足りない。


「事前に文字通り山ほど作っておいて良かったです」

「それは確かに」

「こんなに作ってどうするんだと思ってたが、これでもまだ足りないのか……」


 なので、さっさと司令部に魔法の松明の山を提供した。そんな気がしたんだよ。報酬でレシピが出るって時点で大量消費もしくは大量生産が必要なのは間違いない上に、元々消耗品なんだから。

 まぁ魔法の松明だけじゃなくて、それこそ普通の松明とか、どこの誰が作ったのかパキッと折って光る棒でもいい。ケミカルライトだっけ? フリアドのはがっつり魔法とモンスター素材だけど。

 上から見る時に必要な分だけに限定すれば、魔法の松明の消費はだいぶ抑えられる筈だ。それでもかなりの量が必要になるだろうから、数の力がメインの間はまた生産作業へ打ち込む事になるだろう。


「なんかこう、光る塗料をべったり塗りながら探索したいっすね」

「大体そう言う素材は乾燥速度に問題があるようですよ。モンスターが体をこすりつけただけで消えると思います」

「光ってるとこは安全だと思ったところに、光るモンスターが来ることになるんすね。やっぱなしで」


 あとはやっぱり液体だから、重いんだよな。液体を入れたアイテムは1枠にたくさん入らないし。松明は大きさの割に軽い上に1枠にたくさん入るから、枠と重量で制限があるフリアド式インベントリだと松明の方が便利なんだ。

 それでもやっぱり数があると重くなるし、何より消耗品だからな。何度も使えて1つで済む、宿光石の灯りが主流になっていた訳なんだけど。


「そう言えば先輩、なんか装備でひと悶着あったって聞いたっすけど」

「あー……まぁ、ちょっと」

「?」


 で、その魔法の松明のお代わりを持って行くために倉庫とインベントリを操作していると、フライリーさんにそう聞かれた。あぁうん、あの「彩られゆく空白の旗」な。

 島に戻って来たタイミングで、ヘルマちゃん達に休憩を入れるように声を掛けて、そこで確認してみたんだよ。これって聖地の島にあるボックス様の神殿にあるものじゃないのって。

 そしたら、だな。


「……フリアドこの世界的に言えば、それは当然、人が作った神殿より、神が宿っていたり、神から贈られた場所の方が格上になりますよね……っていう話でした」

「??? ……立派なお客様用の神社の奥に、洞窟とかの中でちんまりした祠があって、その祠が正式な本殿とかいう感じっすか?」

「ほぼ正解です」


 「彩られゆく空白の旗」は、ボックス様こと“神秘にして福音”の神を祀る神殿の内、本殿にあたる場所に掲げる為の旗だ。

 そしてフリアド基準で行くと、ボックス様の神殿における本殿とは、聖地の島に作られたものではなく、私が「庭」を引き継いだ時に貰ったあの神殿になるらしい。

 だから聖地の島に建てた神殿への引っ越しの儀式に使った後は、正式な本殿に掲げておいてもらう為に、ヘルマちゃんに預けられて持って帰ってもらった、という経緯だったようだ。


「……それはいいとして、代わりに渡すのは違うと思うんですが……」

「?」


 もちろん今は神殿に掲げてある。慌ててルージュに旗を立てる為の台を作ってもらったよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る