第1610話 54枚目:鈍足進捗

 壁の模様を描くモンスターの集団を倒すと、確定ドロップとして塗料を落とす。これを持って帰って神の力で染め直せば「神々の塗料」になるのは明白だが、どうやらその道中は、どこから湧いて出たんだという数のモンスターに襲われるらしい。

 まぁ当然新しく塗料を作るより、そこにある塗料を回収した方がコストは低くなる。そのついでに敵を倒せれば上々、といったところだろう。広く分布している敵を倒すのには戦力を集中させればいい。その為には、塗料って言うのは良い目印だろうし。

 なのだが。


「戦力差を考えに入れて動く相手って面倒ですね」

「普段はこれでいいんだけどな」

「殲滅前提ですからね。少しでも削れる時に削っておきたい以上は面倒です」

「まぁそうなんだけどさー」


 それを聞いて、モンスター側の力に染まっている塗料を手持ちの「神々の塗料」と交換してもらって持っているのに、私の所にはモンスターの影すら寄ってこない。相変わらず私の領域スキルに反応があった、と思ったらすぐに消える。

 そしてそれはどうやら他の召喚者プレイヤーが塗料を奪取して撤退している途中でも同じらしく、しつこく追いかけ続けてきたモンスター達が、私の領域スキルの展開範囲に踏み込んだ途端泡を食ったように反転して逃げ出したらしい。

 お陰ですっかり安全地帯扱いだ。いや、いいんだけどさ。間違いなく役に立っている上に塗料の回収が捗っているなら、いいんだけどね?


「そろそろ姫さんのその囮癖、なんとかなんない?」

「色々考えた上でこれが一番なのでは、と結論を出しているので、そもそも癖にはなってませんよ」

「考えた上でその結論が出てくるのがダメなんだが?」

「実際効果的でしたし」

「そりゃそうだよ。なんで普段から護衛で囲んでると思ってるのさ」


 進化してからこっち、サーニャも積極的に注意に参加してくるからちょっとやり辛いんだよなー。実際に効果的で司令部からの要請もあって、かつ手段を選んでられない状況だからやってるんだし、エルルとサーニャも許可してるんだろうけど。

 気が早いかも知れないが、これは異世界散歩をするには準備が必要だな。世界的侵略者を全部倒した後どうなるかは分からないが、大神の抱えている「大きな傷」というのも1つ2つではないだろうし、そもそも“呑”むとやらが倒せる相手かどうかも分からないし、続いていく可能性は高いと思う。

 竜都の大陸序盤の異世界散歩、楽しかったんだよなー。他の場所も同じノリで歩いてみたい。最終手段としてはサブキャラ作成があるが、私はうちの子と異世界散歩がしたいんだよ。


「お嬢?」

「私が囮として有効なのは事実ですし。とりあえず、今のところは威嚇というか、戦力差によって戦いそのものが起こらない状態になっていますし、大丈夫じゃないでしょうか」

「……。向こうがこっち専用の戦力を差し向ける、とかしなければな」

「もうちょっと進んで、私達を排除しないと詰む、と相手が理解すればあるかも知れませんね」

「それを分かってて前に出続けるんだもんなぁ、姫さんは」


 脱走計画ともいえる内容を考えていたのが分かったのかエルルが声を掛けてきたが、そっと話を逸らす。実際それも考えていたし、話の流れ的にも不自然じゃない。話を逸らすのも慣れたもんだ。

 まぁエルルの事だから、油断したら完全に察知されるんだろうけど。何で分かるんだろうな? これも同族補正なのか?


「一足飛びに元凶を叩く、という訳にはいきませんからね。しかし時間は限られていますから、可能な限り効率は上げて行かないと色々間に合いません」

「それはそうなんだけど。……姫さんじゃないけど、本当にそろそろ壁とか壊せるようにならないかな?」

「出来たとしても、巻き添えが大変な事になるだろ」

「ちゃんと狙えば大丈夫じゃない?」

「加減が出来るようになってから言え」


 モンスターがどこからともなく湧いてきてるし、そろそろ地形破壊出来ないかな。出来たら色々楽になるんだけど。

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