第1611話 54枚目:強敵対策

 さて、ここで問題だ。

 単純に戦力をぶつけた場合はどう考えても敗北一択、搦め手として毒の類を使っても通用する気配が無く、あまつさえ周りの何とか仕留められそうなやつを庇って守る敵がいた場合、どう対処すればいいだろうか。

 無理ゲーじゃねーか! と叫んでコントローラーを投げるというのもまぁ一手だが、それをやっている間にもその敵は動いてガンガン攻め込んでくるものとする。つまり対処を急がないとゲームオーバーって訳だ。


「まぁ普通に考えて、隔離するか別の場所におびき出すしかないですよねぇ」

「呑気に言ってる場合か」

「いえ、一応自分の事を敵視点で考えてみたら、どう考えても納得しかなかったので」

「納得しかないのか……」

「それはそれとして、うちの子に手を出した以上は自重も容赦もしませんが」

「自重はしろこの降って湧いた系お嬢」


 なるほど、容赦はしなくていいんだな。……というのはともかく、現状何が起こっているかと言えば、ここまでと同様に壁の模様を焼いたら、空間が歪んで吸い込まれた。それもその場にいた全員がランダムでどこかに飛ばされる、という形で、だ。

 とっさに2重展開している領域スキルにそれぞれ魔力とスタミナを叩き込んで出力を上げたのだが、それでも阻止するには至らなかったらしい。一応多少は妨害出来たらしく、単独で強制ワープさせられるのはギリギリ回避できたようだが。


『ほっほっほ。流石皇女様と『勇者』殿と言ったところか。随分と異界の力が強いこの場所でも、調子を崩すことは無いようで何より』


 【人化】を解いている現在は私の装備扱いとなっているブライアンさんも一緒だったようで、首元から声がした。あー、やっぱり奥地なんだな。領域スキルのコストが上がってる気がすると思ったんだよ。

 さて、と改めて周囲を見る。暗い石で作られた四角く無機質な通路はそのままだが、あちこちから領域スキルを押し込まれている感覚がある。恐らく、放っておけば全方向からモンスターが押し寄せてくるんだろう。

 それでもここにいるのは私とエルルなので、正直どうとでもなる。だから問題は、他の皆なんだよな。サーニャが居るところは何とかなるだろうし、他の皆も戦闘力は高いので、あっさり押し潰される、というのは考えなくていい。


「あの咄嗟の反応とはいえ、ルイルとルウとか、ルシルとルージュとか、不安の残る組み合わせにはなっていなかったと思うんですが……」

「……。迷子癖の方はともかく、それ以外は大丈夫じゃないか?」

「ルージュはルシルの動きを追えませんから、同士討ちを恐れて上手く動けなくなります。防御に回るにしても、今回は盾をあんまり持ち込んでいませんし。他の使徒生まれの子ぐらい「絶対避ける」という信頼が持てていれば大丈夫なんですけど」

「あー……なるほどな。俺やサーニャなら動きが見えるし、最悪方向を分ければいいが……」

「今はスキルなしでも会話が出来るから、大丈夫だと思いたいですね」


 今回、ルイシャンとショーナさんは留守番してくれているが、ミラちゃんとニーアさんは一緒に来てるからな。まぁ屋内でミラちゃんに勝てる相手はまずいないし、ニーアさんもぶっちゃけどうやって勝てばいいのか分からない。

 まぁだから大丈夫だろうし、私がさっきからじっとしているのは領域スキルを可能な限り広域に展開して、皆の合流を待った方がいいかな、という考えがあっての事なんだが……これは、私(とエルル)はかなり奥の方に飛ばされた感じだな。


「まぁ、奥に飛ばされたのなら飛ばされたで、ちょっと確認してみましょうか」

「お嬢?」


 領域スキルがあちこちから押し込まれているのは感じつつ、ぐるん、と旗槍を縦方向に回す。先端で維持していた奇跡による灯りの炎が旗部分に宿り、ごうっと空気を焼く音を立てた。

 そのまま横の壁の方に踏み込みつつ、勢いを殺さず旗槍を横回転。奇跡による灯りの炎が宿った旗部分は、いつかの大戦槌のような形へ変えて、円錐形の方向を壁の方へ。

 正確にはハンマーではないので、アビリティの威力は乗らないし、そもそも発動する事は無い。が。


「敵なら敵で、須らく滅する――それこそが我らが始祖の権能です!!」


 そして十全に勢いを乗せて、壁へと叩き込んだ。ドゴン! というインパクトの瞬間に、宿っていた炎が壁へと移り、爆発するように燃え広がった。

 重量物をぶつけた時の衝撃をそのまま浴びながら、それでも私は旗槍を振り抜いた・・・・・。それはつまり。


「やはり奥に行けば地形を壊すことが出来ましたか。ならば上等、このまま更地にします」

「やらかす気はしたが、やっぱりやったか……」

『ほっほっほ。流石は蛇と竜の始祖ですな。随分とあちらの影響が減じたようですぞ』


 ごう、と空気を焼く音を引き連れて、一旦旗槍を両手で持ち直す。旗部分は炎を宿し大戦槌を模った形のままだ。そして目の前の壁には、廊下と同じくらいの大穴が開いていた。

 壁を殴り抜いたら危機感を覚えたのか、領域スキルが押し込まれる感覚が止まる。つまり、相手が領域スキルを透過状態にして、こっちに殺到しているのだろう。

 それをエルルも感知したらしく、でっかいため息を吐きつつも大太刀を鞘から抜いていた。ブライアンさんも笑いながら、今の一撃が非常に効果的だった事を教えてくれる。


「全員と合流しつつ、可能ならこのまま元凶の所までぶち抜いて直通通路を作ります。何かしらの方法で鍵がかかっている可能性もありますが、半端なものであれば扉諸共押し通りますよ」

「まぁ、これだけ派手にやっていれば、どれだけ離れてても分かるだろうしな」

『ならば、より影響が強い方向ぐらいは示し、標の一環となりましょう』


 奇跡の炎は壁を壊して焼けば維持時間が減るのだが、魔力やスタミナ、体力を注ぎ込む形で捧げれば時間の延長が出来る事は知っている。だから、私の回復力が間に合う限りは維持できるって事だ。

 ……若干、北側より先行してしまう、という懸念があるにはあったが、私が先行すればそれはそれで、「第二候補」あたりが暴れてくれるだろう。地形破壊が出来る、かつ、破壊したら敵が山ほど寄って来る、というのは、あの戦闘狂にとってはご褒美でしかないし。

 さて。それじゃ、破壊活動を始めようか。

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