第1603話 53枚目:年始準備

 イベントのお知らせが届いて年明けのイベント内容が分かったところで、目の前の問題は、フリアド世界においては4年に一度の特別な年越しをどうするかだった。

 毎年恒例の特殊ログイン時間はあったし、どうやらそういうイベントが待っているからか、この年越しで神に捧げた感謝や祈り、儀式の類は数割増しの効果があるという告知がお知らせにくっついていた。

 これもまた例によって、主に人間種族贔屓の神々のところの狂信者が張り切るんだろうな……と、諦めの境地だった、の、だが。


「あー、なるほど。ここで御使族の復活が効いてくる訳ですか」

「もうちょっと言い方無かったかお嬢」

「まぁでもその通りだよね。少しは反省すればいいんだよ」


 狂信者、常軌を逸して熱心に信仰を捧げる信者だからこそ、御使族に止められたら止まるらしい。だけでなく、聖地の島が解放されて御使族の人達が各大陸を回るようになると、邪神の気配も今までにない精度で探知できるようになったようだ。

 相変わらず年越しに備えて何か準備をしていたらしい上に邪神関係の封印にちょっかいをかける予定だったようだが、今回は先手を打って拠点と儀式場を潰すことに成功したからな。やったぜ。私は関わってないけど。

 しかもどうやらクランメンバー専用掲示板への書き込みを見る限り、元々がっつり邪神認定されている上に、邪神そのものがより邪悪な方へ傾いていた事が判明したらしい。何をやっているんだあのゲテモノピエロは。


「……邪悪な方に傾かせる事が可能という事は、これ、邪神であっても信仰の仕方によっては無害な神にする事も出来たのでは……?」

「相応の信仰心と根気は必要だろうけどな」

「というか、それをやってるのが御使族だよね?」


 そういう事らしいんだよな。しかし通常数十年とか数百年単位でやるべきプロジェクトを、傾きやすい方向だとはいえ十年ちょっとぐらいで推し進めるとは……何でその努力をもっとまともな方向に使わないのか。趣味嗜好の違いなんだけど。

 ただまぁそういう事実が判明したので、『バッドエンド』を名乗る集団は御使族による邪神の無害化という一大プロジェクトを正面から邪魔した事になる。もっと言えば喧嘩を売った事になる。

 で。信仰の本家本元と言っていい相手に喧嘩を売ったらどうなるか、って、言うのは、まぁ、火を見るよりも明らかってやつだな。


「それでも逃げ回って捕まらないのは流石としか言いようが無い訳ですが。それでも、その協力組織はだいぶ削れたようですね」

「そうだな。というか普通はとっくに捕まってなきゃおかしい筈なんだが」

「むしろ御使族を敵に回してよく逃げられてるね?」


 本当に、どうやって逃げてるんだろうな。偽装や変装、邪神の気配無しの拠点なんかを駆使してるんだろうけど。フリアド世界は広いから、ローラー作戦は無理があるし。

 ……ちょっと思ったんだが、邪神を邪神にする事が可能って事は、人間種族ないし人間至上主義のケがある神々を、そっちに傾倒させるっていうのも可能な気がするな?

 もしかしてここまで喧嘩を売りまくって反省しないの、それ自体があのゲテモノピエロの小細工だった可能性まであったりするんじゃないか? 神に対する祈りを偏らせる、つまり祈る人々に広く特定の考えを広めて根付かせる、それって人心掌握の範疇だしな?


「…………少し嫌な予想が出来てしまいましたが、一応カバーさんにだけ連絡しておきましょう。今はティフォン様達“細き目の神々”に捧げる儀式に集中です」

「まぁそうだな」

「それにしても、また姫さんが呼ばれるとは思ってなかったよ」


 え、そんな呑気な事をエルルとサーニャと話をしながら私は何やってるんだって?

 竜都の大陸の竜都で、儀式をしている場所に全力で領域スキルを展開してるよ。舞台装置としての裏方なお仕事だな。

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