第1602話 53枚目:イベントのお知らせ

 28日いっぱいはそのままイベントダンジョンのまだ行っていないステージを探したり、ボックス様の「敵を与える」奇跡を願って「アイテムチケット」を稼いだりした。

 もちろん扉の空間(仮称)も壊したんだが、既に陽炎のようなものは大規模なダンジョンに変わっているからか、サブクエスト扱いの手順というものも出てこなかった。モンスターはたくさん倒したんだけど。

 29日も同じように何も起こらず、これは年末年始の特殊ログイン時間になるまで現状維持か? という流れになって来た、年末最後の土曜日。


「……まぁ、大体予想していましたが、やっぱりそれ以上に斜め上に行くんですね……」

「なんでせめて普通に探索って事にならないんすかねー。それでも十分なボリュームあると思うんすけど」

『過ぎたるは猶及ばざるが如しという言葉を横断幕にして送り付けて差し上げたいですわ』

「シンプルイズベストも捨てがたいですよ」

「薬も過ぎれば毒も追加したいっすね」


 と、いつもの3人で霊獣まみれになりながら見ているのは、土曜日の日付変更線と同時に届いたらしいシステムメール、もとい、1月のイベントのお知らせだ。

 年末まで動きはないというか、年末には動きがあるだろうって事で、私は一旦最前線から下がって生産作業をしてたんだよな。あの巨大な野良ダンジョンを探索するのが1月イベントなのは目に見えていたし、何にせよ消耗品の類はいくらあっても足りないから。

 最近マリーはお香から発想したらしい香水作りで一緒に生産作業をしているので、すんなり集まってイベントのお知らせを確認できるのは良かったんだが……これは、うん。とりあえず、バックストーリーの確認からいこう。



 侵略者側からの干渉に随分と阻まれたものの、召喚者は無事に特殊な試練を踏破し、境界線に接触。召喚者の持つ大神の加護を通し、神々は大陸を封鎖していた境界線を開く事に成功した。

 しかし干渉がある中でその作業は難航を極め、その開き方は神ならぬ試練のようなもの、という中途半端なものになってしまった。それも空間の歪みを引き寄せ、奪い、蓄える動きと規模はそのままだ。

 もちろん、最も至近となる複合神殿への干渉も続いている。しかし、形だけでも試練となったのであれば、と、神々は対処を継続しつつ話し合い、意見を交わし、相談し、その結果を召喚者へ、託宣として下すのだった――――。



 まぁここまではいい。正直予想の範疇というか、予想通りだ。あの巨大な野良ダンジョンの探索と攻略、そして踏破。それはいい。の、だが。

 その、探索の仕方が、だな。住民も参加できるのはいいし、例によって「神々の塗料」で魔法陣を描いて全体に効果があるのも、空間を切り取って神々の力として回収するのもいい、ん、だが。


「なんでわざわざ御使族の方々が繊細にバランスをとってあの複合神殿を建築したと思ってるんです」

「もうほんとそれっすよねー。もう何度目か分からんすけど、神々同士で争ってる場合じゃねーんすよねー!」

『世俗から切り離されている筈の神が、権力欲に取りつかれているとは、頭が痛いどころではありませんわよ……』


 ……この感想の通り、切り取るのに神の像が必要で、かつ、その神の像を設置した空間はその神の総取り。そして回収した空間は、複合神殿に反映される、らしいんだ。

 つまり、神同士の権威争いが、思いっきり前面に出てくるって事だな。いい加減にしろ……!


「しかもこの調子だと、素人の狂信者が押しかけかねないじゃないですか」

「渡鯨族の人達や竜族の人達に大迷惑をかける未来しか見えねーっす」

『これだからより一層召喚者からの信心は失われるというのをいい加減理解していただきたいですわね』


 ほんとにな。

 お陰で掲示板でも大変な騒ぎになってるよ。何でこうもことごとく喧嘩を売ろうとするかねぇ?

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