第1598話 53枚目:方針修正

 で、何とかイベントダンジョン999回目のステージは、3つともクリアできたんだが……透明な壁は消えなかった。なんでだ。


「司令部曰く、この透明な壁は空間の歪みを使って作られている為、陽炎のようなものを含めたモンスター側の空間の歪みの蓄積を削り切らないと解除されないんじゃないか、との事ですが……」

「神々の力では何とかならないの?」

「ならないからこうなっている訳ですね。奇跡による攻撃も、元がただのエネルギーだからか通じないようです。というか、下手に指向性を与えるとそのまま暴走しかねないから触るなと」

「……まぁ、例えば始祖の炎辺りが伝っていったら大変な事になるからな……」


 という事で司令部は急いで計画を練り直している。ボスモンスターは倒せるから、問題は空間の歪みだ。たぶん片方は私がボックス様の「敵を与える」奇跡を願う事になるだろうが、それと同程度に空間の歪みを削る方法はどうしたらいいんだろうな?

 まぁどうするにしても召喚者プレイヤーの稼働率が高いタイミングで、かつ長丁場になる可能性が高いからログインできる時間が長い日、という事で実行は28日という事になった。

 それまでは準備期間として生産作業をしたり、装備を修理したり、ボスモンスターを倒してタイムを縮められないか練習したりする時間となる。


「といってもそう時間がある訳ではないんですけど」

「お嬢。あの奇跡を願うって事は、あの規模のモンスターを相手にしなきゃいけないって事だよな?」

「そうですね。それも「第四候補」やベテラン召喚者プレイヤー抜きで」

「……。大丈夫なのか?」

「大丈夫かどうかは分かりませんが、やらない訳にはいきませんし」


 出来るかどうかじゃなくて、やるしかない、だからなー。イベントの難易度が高い。いつもの事だけど。

 まぁ今回はあの扉の空間(仮称)でやったみたいに、ティフォン様の灯りの奇跡を用意しておけば多少は何とかなるだろうけど。奇跡の出力が上がっているのはイベントダンジョン内部だけだが、敵を焼き尽くす特性はそのままなんだし。

 なので一旦イベントダンジョンを出て、クランホームに帰還だ。ここからはいつもの生産作業三昧だな。


「はい、はい、はい、そう! だいぶ仕上がってまいりましたわね!」

「メェ~、畑仕事したいメェ~」

「メェ~、まさにスパルタってやつだメェ~」


 ……と、思ったら。

 私の島にあるボックス様の神殿、その目の前の広場で、片手に花束を持った双子がマリーになにか練習させられていた。いや、マリーも花束を持ってるから、一緒に練習してたが正しいだろうか。

 服装はいつものだが、片手に花束を持っているのと、何よりちらっと見えた今の動きはもしかしなくても、コトニワの感謝祭の踊りじゃないだろうか。


「踊りが出来たら歌いながら踊るのですから、息切れしている場合ではありませんわよ!」

「マリー? これは一体何をしてるんです?」

「あらおかえりなさいまし。何って、愚問ですわね。感謝祭の踊りと歌の練習ですわ」


 いやまぁそれは見れば分かるんだけど。あとマリーもコトニワをやっていたから感謝祭は知っているだろうし、リアルスキル込みで踊れても何の違和感も無いんだけど。


「何故ルフィルとルフェルを?」

「流石にわたくし1人では足りないと思いまして。その点この2人ならあの世界の住民だったのですから、間違いなくボックス神と親和性が高いでしょうし」

「……まさか、マリー主体でボックス様の奇跡を?」

「えぇ! 司令部から連絡が来ましたわ!」


 わぁ嬉しそう。さてはマリーも感謝祭の衣装を着て踊るっていうのを楽しみにしてたな。

 しかしそれならわざわざ双子でなくても、自分の「庭」の住民を呼んで踊ればいいだろうに……と思ったところで思い出した。そうだった。マリーの「庭」の住民、武闘派()しかいなかった。


「庭主さん、もうちょっと加減するように言って欲しいメェ」

「庭主さん、他の仕事を優先するように言って欲しいメェ」

「すみません、こればかりは私も同意ですし割と本気で時間が無いので、頑張ってください」

「「メェ~!?」」

「おほほほほ! さぁ! 主の承諾も得る事が出来たところで、再開いたしますわよ!」


 後は個人的にこの3人が並んで踊ってるのを見たいって言うのもある。

 スタミナポーションを差し入れで持ってくるから、頑張ってほしい。

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