第1596話 53枚目:攻略ストップ

 で、どこもかしこもツリーとイルミネーションで飾られるイベントの、翌日。


「最大火力でぶっ壊します。エルル、サーニャ、行きますよ」

「止めろお嬢。というか口調」

「あれ、単なる攻撃でどうにかなるものじゃないと思うよ」


 イベントダンジョンは999回目のステージまでクリア出来たものの、そこで出現した「進行ポイント」が不思議な力で覆われていて、先に進むことが出来なくなった。

 ボスモンスター自体は素早くて小さい上に固定値しかダメージが通らないという嫌がらせでしかない相手だったのを、エルルとサーニャの参戦に加えて私が自然回復を越えるまでリソースを突っ込んだ領域スキルを展開し、その動きを鈍らせる事で何とか仕留めたんだけど。

 そんな相手を倒して出てきた「進行ポイント」がその仕様だった。と分かっての会話が先ほどのものだ。なお周りにいた召喚者プレイヤーは、私が「最大火力」と言った時点で一目散に距離を取っている。


「だってどう考えても露骨極まるでしょう。先に進む道は見えているのに通れないとか、一応仮にもここは神々の試練の場ですよ? 理不尽です」

「試練じゃなくて干渉だろうし、力押し以外の手段が必要だと思うが?」

「でも放っておきたくもないよね。さっきのともう一戦するって事だし」


 そうなんだよな。この透明な壁が何か分からないが、あの扉の空間(仮称)に飛ばされる範囲はイベントダンジョン全体の半分まで達している。年末ギリギリに更に干渉範囲が増えるのかどうかは分からないが、もう時間が無いんだよな。

 どうやらこの透明な壁は「指針のタブレット」の感知範囲外らしく、ヒントにも「出来るだけ大人数で利用した方が良いでしょう」としか書いてない。その手前なんだけどなー。

 そうこうしている間に、一旦は全力で逃げていた召喚者プレイヤーの人達も戻って来た。そしてわいわいと透明な壁に対して推測を話し合う。もちろん攻撃している人もいるが、傷が入った様子はない。


「この調子なら次が最後でしょうし、そうなると試練に挑戦中の人は全員が集まるステージになっている筈です。……だから、仕掛けがあるとすれば、他の場所でどうこう、というものだと思うんですが」

「もしくはあの妙な場所だな」


 あの妙な場所。扉の空間(仮称)か。まぁ確かに。もしくはこの透明な壁が通常空間にある陽炎のようなものと同じなら、ボックス様の奇跡でモンスター側のリソースを削るっていうのもありか。

 ……その場合、あの面倒の極みなボスモンスターがたくさん出てきそうな気がするな。これは止めとこう。

 観測班の人や検証班の人も見てくれているし、司令部の人もどこかに連絡を取っているから、何かしら情報が出てくればそれは共有される、と、思うのだが。


「仮に干渉だとしても、私がそれなりの時間近くにいて何の変化もないって時点で、厄介なのは分かりますしね……」

「あ、そっか。姫さんがいたら、モンスター由来なら何か変化があるもんね」


 力押しが無理なのは分かってたが、それでも最大火力をぶつけたくなった気持ちは分かってほしい。それで傷1つつかなかったら更にイラッとするのは分かってるんだけど。

 年末まで1週間を切っても1月のイベントのお知らせが届かないっていう時点で既に嫌な予感はしてるし、その関係でスケジュールを調節したい意図が運営にはあるのかも知れないが、だからってこれは無いんじゃないかなと思うだけで。

 ……結局あの扉の空間(仮称)では出てくるモンスターの数に限界があったみたいだから、もう1回ずつぐらい、南北の大陸それぞれで陽炎のようなものに対して、ボックス様の「敵を与える」奇跡を願っておくべきか? って気すらしてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る