第1592話 53枚目:領域に楔

 今年は年末が土日となる。と言っても休みが増える訳でもなく、今年の大学の冬休みはその直前2日と年が明けてからの3日で、合計1週間という事になる予定のようだ。

 で、それがどういう事かと言うと、既に現在時点……今月は5回ある土日の内、4回目に突入した時点で、時間切れが見えてるって事だ。

 だから司令部も大規模破壊に許可を出したんだろうし、それを実行している召喚者プレイヤーに躊躇いは無い。まぁ今まで散々苦労させられた事に対する憂さ晴らし、もしくはレイドボスの前哨戦って側面もあるだろうけど。


「ところで、エルル」

「なんだお嬢」


 そしてそのタイミングで、私とエルルは揃って扉の空間(仮称)に引き込まれていた。ちょうどさっきのステージが最新の「中継点の楔」があるステージだったので、今は後方から追いつきたい人達が順番に並んで最前線のボスモンスターを倒している。

 もちろんその間、ボスモンスターを倒した当人であるエルルはこの空間にいなければいけない。なのでどうせならと、この空間で領域スキルを展開し、順番待ちの人達と、最前線に追いつく為に集まって来る人達の安全地帯を作っている訳なのだが。


「何かさっきから、だんだん空間の揺れが大きくなってきてる気がするのですが」

「そうだな。ついでに言うと、端の方にある扉にヒビが入って壊れ始めてるな」

「この空間における全域デバフ「モンスターの『王』」の影響は防げてますよね?」

「防げてるからダメなんじゃないか?」


 という事で、ベテラン召喚者プレイヤーの人達は既にここにいるボスモンスター、以外の何かに対して戦闘準備中だ。むしろだからこそ更に人が集まっている気もする。土曜日の午前中だし、ベテランであるほど特級戦力に行動を合わせる事が多いしなー。

 司令部の人も出入りを繰り返して外と連絡を取ってるみたいだし、つまりはこのまま大規模戦闘をやる気って事だ。まぁ確かに、強く干渉している場所ではあるから、ここをつつけば何か出てきそうではあるけど。

 それに、600回目以降のステージで「進行ポイント」を1人で使えば、確実にこの空間へ来ることが出来る。という事で、ちゃくちゃくと参加人数は増えていた訳だが。


「姫さん! なに、大物とやりあうかも知れないってどういう事!?」

「わぁサーニャ。誰にそんな事を言われたんです?」

「大体指示を出してる方の召喚者だよ!」

「気合の入り方がすごいな……」


 サーニャまで来ちゃったか……。というところで、バキッ、と明確に罅の入る音が響いた。周りを見ると、領域スキルの境界線あたりの、明るい灰色の石で出来た床に、バッキリと罅が入っている。

 そして司令部の人から戦闘準備の指示が飛び、私にも指示が来た。つまり。


「まぁたぶん何かは出てくるでしょうからね。準備はいいですかー?」

「えっ姫さん? ちょっと待って、エルルリージェ!?」

「諦めろ。俺がいるのにお前まで呼んだって事で、絶対潰す気だ」

「何を!?」


 そりゃまぁ……推定レイドボスの欠片とか一部だな。それぐらいは出てくるだろうし、普通にモンスターの大群であっても相手のリソースを削れる訳だし。

 という事で私も各種確認。満腹度良し。装備良し。ポーション良し。問題は無いな。

 という訳で。


「行きますよー」


 カン! と旗槍の石突きを鳴らし、全力で【調律領域】と【王権領域】を展開。両方を綺麗に重ねた状態で、自分を中心に球状に力場を設置した。

 途端、バキビキバキッッ! と結構な音と共に周囲の空間に罅が入っていく。だけでなく、足元、領域スキルの内側からは黒みが抜けて行って、白っぽい石へと変わっていった。

 たぶん神々の力だけが残ってモンスター由来の力が減衰、追い出されてるんだろうな、と思いながら見た先で、罅が一ヵ所に集まり、この空間に存在していたものと同じ形の扉を描いていく。そして。


「まぁ来ると思ってました。2人とも、私の領域スキルの外では足場に注意して下さい」

「了解、お嬢」

「せめて一言相談が欲しかったかな姫さん!」


 バキッ、という音と共に扉型の穴が開いて……そこから、体のどこかしらを歯車でできた機構に変えたモンスターが、大量に押し寄せてきた。

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