第1564話 50枚目:奇跡の差異

 イベント中の土曜日という事で、司令部の宣伝があったとはいえ召喚者プレイヤーの稼働率は高い方だっただろう。私の方にもそれなりの人数の召喚者プレイヤーが集まって来たし、掲示板で見る限り北側の大陸にも結構な人数が移動したようだ。

 無事奇跡を願う事は出来て、領域スキルが陽炎のような壁に触れている部分から、大量のモンスターが出現した。儀式場はそこそこ離れた場所に設置されていたし、基本は野戦とはいえ歴戦の召喚者プレイヤー達だ。順次交代したりしつつ、その大群を削り切った。

 どうやら中に人間種族へと転生したばかりの召喚者プレイヤーがそこそこ混ざっていたらしく、ここで一気に武器スキルを始めとしたスキルレベルを上げられたらしい。掲示板が盛り上がってたからな。


「……北側の大陸では、巨大な野良ダンジョン試練モドキが出現したんですか?」

「らしいな。それも儀式が続けば続くほど巨大化していって、儀式が終わったらだんだん縮んでいったとか」

「同じ奇跡を願ったのは間違いない筈ですが、それは随分と様子が違うと言いますか……。召喚者プレイヤー達の様子は?」

「ちょっと驚いてたが、それならそれで、と飛び込んで探索してたみたいだぞ」

「話が違う、と文句を言う人はいなかったようで何よりです」


 で。問題というか何というか、どうやら同じ奇跡を願っても、私と御使族の人達では「敵」の形が違ったようだ。

 ……なるほど。たぶん「神に敵を願う」っていう場合の「敵」の定義が違うんだな。


「たぶんですが、私は敵と言えばモンスターですが、御使族の方々は「神に願う敵」という事で、試練をイメージしながら奇跡を願ったのではないでしょうか」

「ん?」

「奇跡を願う文言に、「敵を与え給え」というのがあるでしょう。その「敵」という言葉に、どういうイメージを持って唱えるか、という違いですね。私はモンスターですが、彼らは恐らく試練をイメージした」

「……。あぁ、だから試練モドキか。侵略者の力に干渉してるんだから、正当な試練にはなりようがないと」


 敵(モンスター)と敵(試練)の違いだな。たぶんだが北側は、聖地の島を囲んでいた力のごった煮に干渉した時と同じような状態になってたんじゃないだろうか。

 今は土曜日午後のログインだが、ちょっと召喚者プレイヤーの稼働率も下がるし、夜が本番だしで準備の時間となっている。なのでお札やポーションを作りながらの会話だ。

 しかしそんな違いが出たのか。本人のイメージに合わせた「敵」を用意してくれるとか、本当にボックス様は最高だな。


「まぁでも、それなら無理にイメージを合わせる必要は無いでしょう。ひたすら正面から戦いたい人は私の方へ、空間を探索して切り取りたい人は御使族の方々の方へ向かうようにすればいいだけの話ですし」

「だいぶ乱戦になってたけどな……」

「ただの平地ですから、いざとなったら一掃できるでしょう?」

「……まぁ、それはそうなんだが」


 あそこは元々何も無かった場所らしいから、地形的にも何も無いんだよな。だから地形を変えても、具体的にはクレーターが出来たところで誰の迷惑にもならない。そういう場所を司令部が探してくれたから。

 むしろ地盤が丈夫な分だけ、クレーターを作ったらそのまま池とか湖として活用できるかも知れない、ぐらいの場所だ。南側の大陸で水場が増えるのは、基本的に歓迎される事だし。


「エルルもちゃんと休んでくださいね。次の奇跡は本気で祈りますから」

「……本当に大丈夫なんだろうな?」

「相手の力を少しでも早く多く削らないといけませんからね」

「お嬢?」


 大丈夫大丈夫。召喚者プレイヤーのやる気がきっとすごい事になってるだろうし、儀式場の周りには野戦用の簡易陣地の建設が進んでるみたいだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る