第1563話 50枚目:対処準備

 たぶん、大セールされていた喧嘩を買った時みたいに満面の笑みだっただろう私を見て、エルルは頭が痛そうに眉間にしわを寄せて額を押さえた。が、すぐに切り替えてくれたらしく、サーニャと竜族部隊の人に声を掛けに行ってくれた。

 そこから私は一度ヘルマちゃんとアリカさんを連れて聖地の島へ移動し、ボックス様の奇跡を願う用の儀式衣装を仕立てる事になった。北側の大陸で同じ奇跡を願う儀式をする人達も一緒に衣装を作っていたようなので、早速私が寄贈した資料が役に立っているらしい。

 司令部からの告知も広く知らせられたし、どうやら召喚者プレイヤーからサブクエストを出すことが出来るかも、という予想は合っていたらしく、その話が広がった辺りで私もサブクエスト受注状態になった。


「うーん、おねーちゃんはやっぱり銀色が似合うと思うの!」

「で、でも、真っ白も、お似合いです……。銀色も、入ってます、し……」

「ありがとうございます。しかし、この衣装を自分で着られる日が来るとは思いませんでしたね」


 「祝護のヴェールカチューシャ」はそのままだが、衣装は裾も袖も長いシンプルなワンピースに、たっぷり布を余らせた貫頭衣……なんだっけ。聖職者の人がよく着てるやつ。あれを重ねている。

 そこに指先が出る長手袋と編み上げ式の長いブーツを着けて、向こうが透けてるんじゃないかと思う程薄いマントを羽織り正面のブローチで止める。もちろん色は白で、銀糸で控えめに模様が入っているぐらいだ。この模様ももちろんボックス様由来である。ブローチは銀の地金に大粒のオパールをはめこんだ、四角いデザインのものだ。

 これなー。この衣装なー。コトニワに出てきたんだよー。ここまで上等な素材ではなかったと思うんだけど。まぁそれはそうだな。だって私が集めて引き継いだ資料を基に作られてるんだから。


「感謝祭の伝統衣装を自分で着れるとは……!」

「伝統なの?」

「という記録がある、のを知っているだけですが、この衣装で踊ったりして神に感謝を捧げていたようですよ。ボックス様の世界では」

「えっ、“神秘にして福音”の神様の衣装じゃないの!?」

「いえいえ。確かに形はほぼ一緒ですが、色と模様でどの神様に感謝を捧げるのかがすぐ分かりますからね。これは間違いなくボックス様専用の儀式衣装です」


 その時はボックス様の回想という形で、公式ページからダウンロードできる一枚絵で見た限りだったが、資料には作り方や寸法までちゃんと書いてたからな。写しを作る時に確認した限り。

 髪型は自由なので、衣装と同じく白地に銀糸でボックス様関係の模様を刺繍してもらったリボンを編み込みつつ結い上げてもらう。まぁ私からは見えないんだけどね。あれかな。三つ編みで輪っかを作る奴。

 流石に旗槍は新しく出来ないが、そこは私の信仰値で何とかする。そもそも午前中の今は様子見って事で、奇跡の出力も控えめに、って言われてるし。


「さて、御使族の方々の準備も終わったようですし、早速向かいましょうか」


 もちろん儀式場も御使族の人達監修のもと司令部協力で作って貰えているし、準備は万全だ。まぁ戦闘力の都合上、召喚者プレイヤーが集まるメインは北側の大陸になるだろうが、こっちにはエルルとサーニャをはじめとしたうちの子と、竜族部隊の人達がいるからな。

 何も言わなくても『可愛いは正義』の人達はこっちに来るだろうし、それで戦力バランスはとれるという目算なんだろう。実際どうなるかは分からないが、司令部の目算は大体の場合間違ってない。

 まぁ領域スキルは展開するし、その場合リソースの供給が出来るようになるって事だ。無限回復状態で負ける事はまず無いだろう。それでもなお処理が間に合わなくなりそうだったら、領域スキルの展開か奇跡の中断をすればいい。ボックス様なら、こっちが本気で危なかったら中断もさせてくれるだろうし。

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