第1562話 50枚目:先行対処

 確認を取ってみると、案の定集落の人達には伝えない“夜天にして闇主”の神の抜け駆けだったので、ミラちゃんには神様自身と集落の人達の両方に、お手紙を書いてもらった。柔らかくて丈夫なクレヨンは作れたからな。

 その辺りで招待状以外の手紙というか要望書というか、そういうものは片付いたので、さて、と改めて山になっている招待状へと目を向ける。


「……面倒ですねぇ」

「お嬢」

「お茶を飲んでいる暇が有るなら野良ダンジョン試練モドキの1つでも攻略したいのが本音です」

「だからってな」

「だって絶対その方が貢献できるでしょう。少なくとも対「モンスターの『王』」の戦略としては」

「否定はしないが、お嬢の場合最初の一言が本音だろ」


 まぁそうなんだけど。何故ゲームでまで対面を最優先とした腹の探り合いはなしあいなんてしなきゃいけないんだ面倒な。慣れて楽しみすらできるマリーでも数が重なると面倒だって愚痴をこぼしてるのに。

 というか、どこからどういう方法でこんな量の招待状が届いたんだ? 少なくとも人間種族の国と私には接点らしい接点は無い筈だぞ。人魚族とか渡鯨族とか、あとはうちの子の出身集落とかならまだしも。

 とはいえ、これだけ届いていて1つも応じないって言うのはあれだろうし。かといって北国の人魚族とか私の事をちゃんとしってるところからの招待状は無いし、どうしたもんかな。


『すみません、ちぃ姫さん。今宜しいでしょうか』

『はい、大丈夫です』


 と、悩んでいると、カバーさんからのウィスパーが届いた。現在はイベント1回目の土曜日午前中、折り返しが目の前に見えているタイミングだ。

 今までのイベントだと、土日という召喚者プレイヤーの稼働率が上がるタイミングで運営が仕掛けてくるのはよくあった。もしかして、そういう感じの何かが見つかったんだろうか。


『実は大陸東側を封鎖している境界線についてなのですが、御使族の方々の協力を得て調査したところ、その向こうに空間の歪みを蓄えている事が判明しました』

『……それはまさか』

『はい。先月のレイドボス、あるいはそれ以前の、ウーゼル島を封鎖していたものと同様と思われます』


 そのウィスパーを聞いて、私の顔色が変わったのが分かったのだろう。エルルが素早く周囲を確認してくれた。一方私はクランメンバー専用掲示板を確認。同じ話はまだ……いや、今現在進行形で書き込まれてるな。


『やはり空間の歪みの消費が発生に追いついていないらしく、現在その蓄えられている空間の歪みは増加の一途をたどっているようです』

『という事は、放置すると……』

『同じく非常に厄介な敵になる可能性が高いですね』


 ウィスパーは聞きつつエルルを手招き。クランメンバー専用掲示板で、今まさに書き込まれて投稿されている文章を見せる。召喚者プレイヤー向け文章だからちょっと読解難易度が高いかも知れないが、エルルなら誤解なく読めるだろう。

 しかし厄介な事になった。流石にレイドボスが新しく追加されるって事は無い、と思いたいが、それこそ劣化レイドボスの量産という形で、内部構造のリセットが前提となる野良ダンジョンが増えてもおかしくない。あれ、攻略に時間がかかるんだよな。


『神々の力は回復傾向にあるんですよね?』

『ありますが、制御まで手が回っているとはとても思えません。ですので、少し予定を前倒しする事になるかと思われますが、あの境界線から空間の歪みを引きずり出す方向で司令部は進めるようです』

『なるほど。……あー、なるほど。それで私が出張る必要があるんですね』

『そうですね。出来ればエルルさん及びサーニャさんと共に、出来る限りの召喚者プレイヤーと足並みを揃えて加速を掛けたいと思います』


 さて問題は、その空間の歪みを引きずり出す方法なのだが。

 これは前例があるので、察して確認を取ると、肯定が返ってきた。ちなみに今回、私は南側の大陸を担当する。そして御使族の人達が協力してくれて、彼らが北側の大陸に行ってくれるらしい。


「……お嬢」

「ははは無理はしませんよ? 流石に今回、屋外の広い場所でやる以上は何を仕込む事も出来ないでしょうし」

「だがな」

「私に届く前に殲滅してくれればいいだけです。絶対に世界規模スタンピートほどはありませんし」


 まぁ、どっちかというと私も、あんまり推奨はしたくない方法なんだが……仕方ないな。状況が状況だ。


「向こうが干渉してきたらどうするんだ」

「それこそ、やれるものならやってみろ、ですよ。――儀式場を整え、衣装を揃え、領域スキルを展開し。その上で、もっとも信仰している神へ祈りを捧げ、奇跡を願っている状態の私に」


 答えは、私が図書街で早急に相手の力を削る為に祈り、願った……ボックス様、“神秘にして福音”の神がもたらす、「敵を与える」奇跡だ。


「できるものなら、ね」

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