第1556話 49枚目:聖地解放

 ちなみに、婚約者がいる竜族(育てられる方)は成長が早くなる事が多く、実年齢の割に体スキルの進化が進んでいる事をアピールする、イコール、婚約者がいるんだぞ、という牽制になるらしい。なるほど。ムルデさんが固まって大人しく引いた筈だ。そんなつもりは一切無かったんだけど。

 しかしそうか。エルルが婚約者かー……。……実感がないな。確かに大変イケメンで最近ますます恰好いいけども。元から何でもできるエリート軍ドラゴンだけども。

 外にも割とセットの認識がされてるっぽいし、実際エルルが居てくれると安心だし、何かにつけて頼ってる自覚はあるが……恋愛感情があるかと言われると、首を傾げざるを得ない。そもそもリアルでそういう相手が居たことも無いしなぁ。


「あれ? というか、今までのあれこれを考えるに、既に外堀が埋まっている状態になるのでは?」


 私は皇女だが、エルルは『勇者』だし。どっちも実家を継ぐ必要は無いし。確か「婚約者」同士の仲良し行動としては、育てた側に育てられた側が、今までしてもらった事を返すっていうのがあったが……そう言えば私、エルルのブラッシングしたな。髪の毛だが。

 後はお揃いのアクセサリ……うちの子全員とはいえ組紐はお揃い。ついでに言えば、うちの子の中で厳密に私と同じ「護る加護の小さな盾」を持っているのはエルルだけだ。エルルはあの時点で『勇者』に進化してたから。

 うん。こう……竜族の婚約者制度を知っている前提で私とエルルを見ていたら、もう完全に仲良し婚約者だな???


「……完全に外堀が埋まっている気がしますね?」


 あっれぇ……? そんなつもりは一切無かったし今も実感は無いんだけどな……?

 え。というか、それでいくとエルルはどうなんだ? 知ってる筈だよな? いやでも、最初出会った時に面倒見てくれたのはその場の流れみたいなもんだし、婚約者とか関係なく、どっちかというと「同族の子供(それも皇女)を守る」方向で動いてた気がする。

 あ、というか、そうか。なるほど。


「それでいくとあれか。竜族に「子守り」って呼ぶと、婚約者って意味になるのか」


 つい口調が崩れたが、誰もいないのでよし。そうかそうか。それでやけに子守りドラゴン呼びを否定して護衛って言い張ってたんだな。

 ……という事は、エルルからしても婚約者のつもりは無いって事では? なるほど。


「…………流石にまさかエルル自身が婚約者状態にあるって事に気付いてないっていうのは無いでしょうし……?」


 なんだろう。なんか微妙に不安なんだけど。気のせいだと思いたい。




 まぁエルルが気にしていないなら私も気にしないでおこうって事で、いつも通りの態度を心掛けた。ので、特に何か変化があった訳ではない。

 否定するのも今更かつ不自然だし、ここで下手に否定すると、それこそ我こそはと婚約者に名乗りを上げる面倒な誰かが湧いてきそうなので、そのまま放置する方針だ。

 私は魔物種族の神が復活した時にレベルキャップが外れて以降、種族レベルが上がり続けている。ただ、エルルもエルルで進化してからは再び種族レベルが上がっているみたいだし、今種族レベルの差がどれくらいかは分からないんだよな。


「とりあえず、御使族の街は無事解放されたようですね」

「ついでにすごい大ニュースがついて来たっすけどね……これ、収集つくんすか?」


 ルールとルージュは【人化】はスルーして、言語スキルだけを習得して帰って来た。何でも、現状で特に不便が無いから、かつ、【人化】している間は一部スキルが使えなくなるから、だそうだ。……まぁ、不便が勝つなら仕方ないか。主に装備してる剣や鎧を浮かせたり動かしたり、分身したりが出来なくなるから。

 そして2人が帰って来たという事は、御使族の筆頭様に「マナの花(無垢)」とその種を届ける事が出来たって事だ。通常空間に戻って来たからいずれ「マナの花(無垢)」もまた咲くだろうが、これでしばらくは大丈夫だろう。

 という事で、御使族の街は、聖地として広く門戸を開いた状態へと戻った。もちろん大陸の神々を回って資格を得た上で竜都に入れるだけの信用を稼ぐ必要はあるが、それでも非常事態だから、という理由での制限が無くなった訳だ。


『無理ではありませんこと?』

「言い切りますね。まぁ私も無理だと思いますけど」

「私らには関係ないっすけど、大ニュースっすもんねー」


 そうなれば、少なくともトップ召喚者プレイヤーはとりあえず行ってみる。聖地って事で、各神の本殿もほとんどがここにあるし、そこに参拝するのは信仰的に大きいから。

 なのだが、そうやって大勢召喚者プレイヤーがやって来た事で、御使族側にそれなりに大きい託宣があったらしい。それが少なくとも人間種族召喚者プレイヤーにとっては非常に大きなものだったから、掲示板も大騒ぎになっている。


「ここまで人間種族と魔物種族の違いがはっきり分かり切ったところで、「転生システム」の登場ですからね。それもしっかり種族レベルを上げてからなら、ランダムでしか選べなかった種族も狙えるとなれば……」

「ところで先輩、これ、竜族もありなんすか?」

「一応ありらしいですよ、『アナンシの壺』発表の情報によれば。……まぁ、必要な素質というか、積み立て種族レベルが全く足りないようですが」

『当然ですわね。わたくしの魔猫族ですら前提となる種族レベルが三千からでしてよ? 少なくとも、単独で竜族の方々と打ち合って勝てる程度の実力は必要ですわ』

「それ普通は無理ゲーって言わないっすか?」

「でも大体合ってるんですよね。他の種族への転生条件を見る限り」


 ちなみに、猫族に転生した召喚者プレイヤーは割といるらしい。流石狩猟種族と言うべきか、割と強いんだよな、猫族。半分くらいは可愛いの為だろうけど。

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